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「焦土の刑事」堂場瞬一


堂場瞬一さんの作品は「震える牛」しか読んだことがなく、硬い空気感で進むのかなぁと思っていた。

 もちろん時代背景や事件は悲惨で、主人公のひとりである海老沢に降りかかる不幸もまた辛いのだけど、全編を通してどこかエネルギーに溢れていて前向きであり、苦もなくスッと読めた。
 それは、高峰のまっすぐな正義感と、戦火や組織の理不尽さにやられても立ち上がる強さのおかげだろう。節子との淡い恋模様も清涼剤として読みやすさに貢献している。

 それにしても、戦争中に死体はたくさん出ただろうし、実際にはどさくさに紛れて埋もれてしまった殺人事件もたくさんあったのだろうな。とかく戦争中の警察といえば本書にも登場する思想警察たる特高を思い浮かべるけど、いわゆる高峰のような殺人刑事や泥棒刑事はどこまで仕事ができていたんだろうな。そんなことに思いを至らせてくれる作品だった。

 あと、海老沢のような警視庁保安課の検閲官と作家の関係性について考えたこともないし、戦争中に警察の評判を目一杯傷付けた特高所属の警察官が戦後どんな目にあったのかも気にしたことがなかった。実際には海老沢のように公安警察に戻った者も多いんだろうけど。

★★★⭐︎⭐︎(星5つ中3つ)
続編も読みたい。

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