漱石と「隣の客」その1
その客、幼名を「処之助」といい、本名を常規といった。
俳句を嗜む洒脱なその客は流行り病で胸を病んでいた。
沢山の号やペンネームを持っていた。
「鳴いて血を吐く」故事を持つ鳥に、病身の我が身と本名を重ね合わせ、号の一つに加えた。
その鳥は、田鵑、蜀魂、杜宇、杜鵑、時鳥、不如帰、郭公など多くの表記を持ち、沢山の変名を持つのその客には、将に打って付けであった。
その客とは、「正岡子規」である。
彼は大の野球好きであった。
試合に出ては自ら捕手を務め、これに題をとった句や歌を残した。