見出し画像

フィギュアスケートとバレエ【ネイサン・チェン選手の魅力解剖】①

世界中のフィギュアスケートファンを魅了したネイサン・チェン選手。

彼のファンである私たちは、正確で危なげの無いジャンプに惹かれたというよりは、

全体のラインの美しさやフリーレッグ、
そして音楽性などに魅力を感じている方が多いのではないでしょうか。

フィギュアスケート歴はない私ですが、
幼い頃から、母がいつも冬になるとテレビでスケートをつけていた影響もあり
何となく一緒に観ることもままあったのですが....

自身がずっとバレエを(割と真剣に)していたことから

「若干伸びていない膝」
「何となくポーズのラインから出ているお尻」
「少し乱暴に思える手振り」

等の、バレエの世界ではこっぴどく叱られるような点が気になって仕方なかったのです。

勿論、あんなにほっそいブレードでバランスを取ることがいかに難しいか、床の上で踊るバレエとは事情が違うことはよく分かります。

「だからきっと、氷の上では出来ないものなのだろう」
と勝手に思っていたのです....

ネイサンのシニアデビュー、海賊/韃靼人プロを観るまでは。

(以後敬愛と尊敬の念を込め、あえて「ネイサン」と呼ばせていただくこととします。)

完全なる一目惚れでした。

まず1番に目に留まったのは美しいポジションです。

バレエでは、主な身体の向きが8方向あります。(「アラインメント」なんていったりします)

英国ロイヤルオペラハウスの公式チャンネルから引用させていただきつつ、少しご紹介しますね。(https://youtube.com/playlist?list=PL7E40E6E2DAB561B5)

足元にある図の「面」と「角」で8方向です

デモをしてくれているダンサーの足元をご覧いただくと....
骨盤の向き等の身体の向き右手前の角を向いているのがお分かりでしょうか。

このポジションを「クロワゼ」と言います。
バレエ用語はフランス語を使用しますが、
つまりは英語で言うところの「close」です。
「身体が正面(客席)に対して閉じている」と
考えていただければ分かりやすいかと思います。

これは足や手を動かしていても同様です。

5番ポジションから前に足を伸ばしているので、「クロワゼ ドゥバン(前の意)」

ポイントは、身体はキュッと絞る一方で、
顔が違う方向(この場合は正面ぎみ)を向いていることです。
このラインは身体も絞り、顔のラインも絞り、
首筋も美しく見せることが出来るため、
ある意味真正面を向くよりもバレエでは基本であり、舞台映えするポジションなのです。

バレエを観に行かれたことがある方なら、あまり真正面を向いて立つバレエダンサーがいないことをお分かりいただけるかと思います。笑
(勿論、そういう振り付けもゼロではない)
(ちなみにネイサンの海賊プロ冒頭でも登場していますよ!)

次は、「エファセ」ポジションです。

「エファセ ドゥバン」
足や手を基本の位置に戻しても「エファセ」です

こちらは先ほどと逆で、身体の内側が見えるような形になっています。
しかし、角度をつけているために先ほどの「クロワゼ」と同様、「しぼり」を意識しなければならないポジションです。

「エカルテ ドゥバン」
これは足や手を基本ポジションに戻すと実は「クロワゼ」になります。

こちらは「エカルテ」ポジションです。
前掲2ポジションが身体を絞るようなものだったのとは異なり、身体を一直線に収めるようなイメージですね。
(ネイサンのイーグルが一層美しいのはこのポジションでの顔の向きや首の角度を最大限に活用しているから💡)

いまご紹介した3つと、それぞれのデリエール(もう一方の足を出して後ろ)+真正面/真後ろ、で8方向となります。

.....いやいやそれが何やねんって思いますよね。

もう一度見てください!
この衝撃シニアデビューのネイサンを!!

全てのポジションに一切の隙無し!!!
こんなに身体をしぼったポジションが作れるフィギュアスケーターを私は観たことがなかった!!!

そして身体の角度に対して、効果的に顔のポジションも細かくつけていますよね。
そしてアームス(腕)もとても良い。
(アームスについてはここで語り出すと果てしないのでまたの機会に)

え、バレエダンサーが....氷の上に...いてる....?

といった衝撃でした。

このシーズンは特に、海賊SP/韃靼人FSともにとてもバレエ的な要素の濃いぃシーズンでしたよね。(歓喜)

ズエワさんの指導や、実際にバレエの舞台を鑑賞して影響を受けたこともあり、ネイサンの中でもこうしたアラインメントに対する意識が非常に高いシーズンだったように見受けられます。

子どもの頃からきちんとレッスンしていると、この辺は自然と身についてくるものではあります。
しかし思っている以上に強く意識して神経を働かせないと、察するに、氷の上の猛スピードの中でこんなにスッッとバレエポジに入るのは大変なのではないでしょうか。

そしてラインの美しさに度肝を抜かれていた私ですが、足元もネイサンはすごいことをやっていたのです。

(あっ、イーグルでも膝って伸びるんじゃん....)

(あっ、イーグルってお尻出ないで一直線になれるんじゃん...エカルテポジションでイーグルしてるじゃん.....)

(え、スピンの時も軸足の膝のお皿「クンッ」て入ってる...普通にアラベスクしてるみたいに綺麗....)

(え、この人フリーレッグ全部ターンアウトしてる...なんなら浮いてる足ちゃんとつま先伸びてるんじゃ.....)

あんなにゴッツい靴を履いていても、タイツじゃなくてスラックスであっても、

膝を伸ばすこと
股関節からターンアウト(開く)こと
爪先を伸ばす(足の甲を出す)こと

意識しているかしてないかって、簡単に分かってしまうんですよね。

あぁ、この人は本当に全身で踊っているんだな

そう思いました。

そしてネイサンの、美しいけれど大袈裟ではない踊りの持つ雰囲気にも、私は惹かれました。

バレエのスタイルにも様々あります。

ロシア(ワガノワ)系
アメリカ
パリオペラ座
英国ロイヤル

などなど、本当に同じバレエでも持つ雰囲気は様々。
ロシアを例に挙げると、同じ人間とは思えないほど手足の長くて美しい容姿のダンサーたちが
脚を高ぁーーーーーーく上げますよね。

一方で先ほど解説に使用したデモ映像の英国ロイヤルのスタイルは、正しいポジションの中での表現の自由ということをとても大切にします。その丁寧なポジショニングと踊りが、全体の雰囲気をキラキラと柔らかいものにしているのだと、私は思います。

ネイサンにも、近いものを感じたのです。

決して、オーバーに過剰に表現するのがバレエではないのです。
丁寧に、ひとつひとつの動き毎に客席からどう見えるか、たったひとつの鉄琴の音色をどのように表現するか、そういった果てしない思考を巡らせながら動くから、誰かに届くものがある。

フィギュアスケートは確かにスポーツだけれど、そういうレベルの芸術性が宿った選手が現れることがあるんだ....

そんな風に驚いたのが、ネイサンとの出逢いでした。

※タイトルヘッダー画像は、ネイサン公式インスタグラムより
(https://www.instagram.com/p/CcIRkAeLUAL/?igshid=YmMyMTA2M2Y=)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?