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国際情勢を予測できる?ミアシャイマー教授の理論


イントロダクション

今回は国際関係論の大御所、ミアシャイマー教授の理論について紹介します。

このnoteを読むメリットは以下でございます。

  • アメリカと中国がなぜ緊張関係にあるかわかる

  • 500ページを超える大著「大国政治の悲劇」の概要が約3000字くらいで掴める

  • 国際情勢を理解したり、未来予測したりする思考法を知ることができる



ミアシャイマー教授の理論


ミアシャイマー教授の理論の概要

理論の詳細に入る前に、彼の主張を
示しておきます。
それは、
「国家は常に軍事力の最大化を目指す。その原因は国際システムの構造に求められる」
というものです。
その構造はどんなものか、どうして構造が
軍事力の最大化の原因に
なるのか、については次節で説明します。

ちなみに、ミアシャイマー教授は
国際関係論のリアリズムという学派に
属しています。
リアリズムは「国際政治=権力争いの場」
と捉えます。
そして「どうして戦争が起きてしまうのか」ということを考える学派です。

国際政治の5つの前提

ミアシャイマー教授は国際システムの構造を形作る5つの前提を提示します。
この5つの前提が国際システムの構造であり、軍事力の最大化という行動をもたらします。

前提1:アナーキー(無政府状態)
これはカオスで無茶苦茶であるという意味ではなく
国家に命令できる存在はいない
ということです。

国際システムと国内システムの比較

前提2:国家はある程度攻撃的な能力を持つ
多くの国家でいうところの軍隊のことです。
軍隊を持っていない国でも、
国民を敵国に送り込んで肉弾戦はできます。

前提3:他国の考えを完全には知ることができない
他国の戦争計画は分からないということ
です。
また、政権交代や革命でリーダーが変わったら、計画も変わる可能性があります。

前提4:国家の最大の目標は生き残りである
まずは生き残らないと、他の目標が達成できないからです。米国という国なくして、
米国が民主主義を世界に広めるということはできません。

前提5:国家は合理的な存在である
損得勘定をちゃんとして、得な行動を
選択するということです。ここでいう得は「生き残れる確率が高い」ということです。

5つの前提の帰結-国家は軍事力の最大化を志向する-

それでは、これらの前提が組み合わさったらどうなるか見てみましょう。

まず、アナーキーです(前提1)。
つまり悪い国家に侵略を辞めろと命令できるものは存在しません。
自分が危機に陥ったら、自分で
何とかするしかありません。

その一方で、すべての国家は攻撃的な能力を持ちます(前提2)。
加えて、他国の考えを
完全に知ることはできません(前提3)。
今は穏やかなあの国が、
いきなり侵略してくることもあり得ます。

ここまでのロジックを図表にまとめます。
なお、図表の矢印は思考の流れを示します。

前提1,2,3から導き出せること

そんな中で、国家は生き残らなければ
いけません(前提4)。
生き残るためには合理的な選択をしていく
必要があります(前提5)。

国際システムはアナーキーなので、
自分で何とかするしかありません。
そこで一番手っ取り早い(合理的)なのは、最強になることです。
つまり、いつ誰と戦っても勝てるように、
軍事力の最大化を目指す
ことが合理的です。


前提4,5とロジック1の結果から導き出せること

こうして、国際システムの構造が軍事力の
最大化という国家の行動を
もたらすのです。

ミアシャイマー教授は軍事力の最大化を
原理として、様々な戦略や歴史上の国家の
行動を説明しています。
さらには、2018年ごろに始まった米中間の
競争激化も予言しています。
ミアシャイマー教授の米中関係論について、次章で見ていきます。

ミアシャイマー教授の理論による未来予測

主著「大国政治の悲劇」で展開された未来予測

軍事力の最大化という行動を突き詰めると、世界最強の国家になる、
というゴールになります。
ミアシャイマー教授はこれを「世界覇権」と呼んでいます。

世界覇権はまず不可能です。
理由は単純で、地球が広すぎるからです。
でも、近隣地域で最強になることは比較的容易です。
ミアシャイマー教授はこれを「地域覇権」と呼びます。
地域覇権国の例はアメリカです。
アメリカは北アメリカ最強の国家であり、
隣国のメキシコやカナダは軍事的には相手になりません

世界覇権を目指せない中で、
地域覇権国はどうしたらいいか。
それは他の地域に地域覇権が誕生することを防ぐことです。
もしくは他の地域の地域覇権国に対抗する
ことです。

最強(覇権)への戦略

これの代表例は冷戦です。
20世紀の時点でアメリカは既に
地域覇権国でした。
第二次世界大戦後に、ソ連がユーラシアの
地域覇権国候補に躍り出ました。そのため、NATOや日米同盟を作ってソ連に対抗したのです。

ミアシャイマー教授は米中関係にこの考えを適用しました。
主著「大国政治の悲劇」が出版されたのは2001年です。
その中で、ミアシャイマー教授は中国がこのまま経済成長を続ければ
米中関係の緊張は避けられないと予測します(※)。
この予測は2018年の米中貿易戦争によって、予測として正当化されました。

※なぜ米中関係の緊張において、中国の経済成長が重視されるか。
これは国家の軍事力の源が経済力だからです。
経済の規模が大きいほど、税金で取れる財源が増えます。その結果、軍事費を増やすことができます。結果、軍事力が大きくなっていきます。
また、人口も軍事力の要素として重視されています。兵員になるし、人口が大きい国は
経済規模も大きくなりやすいからです。

未来予測の思考法

つまり、ミアシャイマー教授は軍事力、
経済、人口の3つの要素をもとに、国際政治の説明や予測を行っているのです。
未来予測の場合、各国の政策は
わかりません。しかし、人口はかなりの精度で予測がつきます。経済規模も人口動態によってある程度見当がつきます。
経済規模と人口である程度、地域覇権国に対抗できる国が現れると、
現地域覇権国との競争が起きる
というのが、ミアシャイマー教授から
読み取れる未来予測の方法です。


まとめ

今回のnoteでは、リアリズムの大御所
ミアシャイマー教授の理論を紹介しました。
彼の理論は、
国際システムの構造について5つの前提を設定
→「国家は軍事力の最大化を目指す」という原理の導出
→地域覇権国は他の地域覇権国を妨害するという行動を予測
→軍事力、経済規模、人口を手掛かりにして、実際の国際情勢に適用
→冷戦を説明したり、米中関係の緊張を予測したり
という風にまとめることができます。

ミアシャイマー教授は、国内政治を完全に無視していたり、戦争が起こるタイミングは予測できなかったりという欠点は抱えています。
しかし、シンプルかつ強力な分析ツールを提供できていると思います。
よかったら主著「大国政治の悲劇」も読んでみてください!
最後までお読みいただきありがとうございました!!

参考文献
Mearsheimer, J.J. (2001), The Tragedy of Great Power Politics, New York: W.W. norton(ジョンJミアシャイマー、奥山真司(訳)、(2019).「大国政治の悲劇」、五月書房新社)

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