近代社会思想の考察はマキャベリから始まります。


マキャヴェリは、16世紀のフィレンツェの政治家で、『君主論』や『ディスコルシ』という本を著しました。彼が本を書いたのは、彼の祖国フィレンツェが強大な外国(フランスなど)の脅威にさらされていたからです。この状況を切り抜けるために必要な要素を考察したのが、彼の政治思想です。
『君主論』は、君主が国家を統治するために必要な知恵や技術を説いた本です。マキャヴェリは、人間は全て自己利益を追求すると考えていました。これは、近代的な発想で、古代哲学では、人間は身分によって異なる欲望を持つとされていました。(例:プラトンの『国家』)

全ての人間が自己利益を求めるという前提から、マキャヴェリは君主に対して、道徳や宗教に縛られず、目的のためには手段を選ばないべきだと主張しました。マキャヴェリの主張は、マキャベリズムや権謀術数とも言われることがありますが、それはこのような人間観に基づいているからです。

『ディスコルシ』は、ローマ史家リウィウスの著作をもとに、共和制の優位性と必要性を論じた本です。マキャヴェリは、共和制を推奨しました。これは、『君主論』で君主の権力を強調した内容とは対照的に見えるかもしれません。共和制が最善となる理由は、2つあり、1つ目の理由は、共和制が「法の支配」を保証するということです。マキャヴェリは、法の支配があれば、市民は自由になり、法に従って協力して国家の利益を追求できると考えました。

2つ目の理由は、共和制が優れたリーダーを選出しやすいということです。君主や貴族は世襲によって決まりますが、共和制は選挙によってトップを選びますので、能力の高い人を選ぶ可能性が高まります。さらに、選挙前後の権力争いも、リーダーの資質を試す機会になります。
マキャヴェリの目的である「自立した国家の建設」に関連するのは2つ目の理由のように思われますが、当時の社会状況を考えると、1つ目の理由も重要な意味を持ちます。

当時の社会状況とは、傭兵の横行と市場経済の発展のことでした。マキャヴェリにとって、前者は職業軍人に国防を委ねてしまうような精神的衰退の表れであり、後者は経済的不平等によって国内の結束を弱めるものでした。これらに対抗するためには、「法の支配」に基づく連帯の維持が必要であったという解釈は、妥当なものと言えます。
マキャヴェリは、人間は自己利益を追求すると考えていましたが、市場経済に否定的でした。それは、マキャヴェリにとって、利益とは名誉のことであったからです。つまり、国のトップになって国家を強化することが、個人にとっての利益であったのです。ここには、ある意味でマキャヴェリの時代的限界があったといえそうです。

参考文献
Russel, Bertrand. (2004). A History of Western Philosophy. (Routledge classics)
坂本, 達也. (2017). 社会思想の歴史. 名古屋大学出版会.
Gaus, G.F., Agostino, F.D' eds. (2012). Routledge Companion to Social and Political Philosophy. Routledge.

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