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私がイッキ読みした本 ①『正欲』

朝井リョウさんの『正欲』。
この作品が映像化すると発表された頃、NHKの番組で朝井さんを偶然拝見し、朝井さんの考えや言葉選びが面白いなと感じて、いつか朝井さんの作品を読んでみようと思うようになりました。
そして、この作品が映像化するということと、帯文句の「読む前の自分には戻れない」という言葉に引かれて、購入して読んでみました。

結果、2日で読み終え、この作品を読んだ感想を誰かに伝えて共有したい、他の人の意見を聞きたい、と思って、今文章にしている訳ですが、読んだ感想を文章にして共有しようと決意して文章にしている今まで、ものすごく時間がかかりました...。

文庫版に掲載されている解説の方も述べられていますが、感想を言葉にすることが凄く難しい。当たり前だけど、感想だから主観が入るわけで、その主観が間違っているかもしれない、誰かを傷つけるかもしれない。正しい感想なんてあるわけないのに、正しい感想を求めてしまう...。
そんな気持ちで、あーだこーだ考えながら、感想をまとめてみました。

①私は「常識」という社会的マジョリティに守られて生きている
『正欲』を読みながら、そして読み終えて一番に思った感想はこれです。私が持っている価値観、恋愛・性的指向等は概ね「常識」の範疇で、良し、というか、あっていいと思われてるものだと思っています。
でも、この作品に出てくる主人公たちが抱えているものは常識外のもので、社会に認められていない。非難される。お前はおかしい、間違っている、変だ、と言われるようなものを抱えて生きている。
そう思うと、私は今のところ恵まれていて、大きな社会の大多数の1人として認められて生きているんだな、と思いました。
でも「常識」はいつ変わるか分からないし、今正しいと思っているものもいつか規制されるかもしれないので、今のところ私の価値観等は認められて、守られていると思います。読み終えた今、学生の頃に聞いた「常識を疑え」とはこういうことか、とすごく腑に落ちました。

②マイノリティの中のマイノリティ
この作品を読んで、社会はマジョリティとマイノリティではなく、マジョリティ、認識されているマイノリティ、認識されていない、声を上げられないマイノリティの3つになるんじゃないかと思いました。
偏見かもしれませんが、LGBTQといった社会に認識され、認められつつあるマイノリティと、そうじゃないマイノリティ。作品中の言葉を使って言えば、「マイノリティの中のマジョリティ」と、マイノリティの中のマイノリティがあって、後者が主人公たち。
マイノリティの中のマイノリティってどれだけ生きづらいんだ...と思いましたが、私も気づいてないだけで、マイノリティの中のマイノリティになる部分があるかもしれないし、主人公たちのように、仲間を見つけて、網を編んで、小さな社会、コミュニティをつくれたら、マイノリティでも生きやすくなるのかなと思いました。

③否定せずに、「そうなんだ」で受け止められる人になりたい
私はこの作品を読みながら、まるで分かりやすい論文を読んでるみたいだ、と感じました。作者である朝井さんが言う「多様性とは」「正欲とは」という問に対して、主人公たちの言葉や考えを通しながら朝井さんの解が論じられているように思いました。
その中で「正欲」とは、自分が「正しい」と思う欲、考え、すなわち「主観」なのではないか、と私は思いました。
主観となると、私と他人は違う人だから、みんな違って当たり前。だけど仲間はずれは嫌だし、お前は変だって言われるのも怖いから、自分は間違っていないのか確認する。確かめたくなる。自分が間違ってない事が分かったら、安心して、他に間違っている人を見つけて、攻撃したくなる。
そんな人もいれば、違って当たり前だからあなたの事も理解するよ、理解出来るよって人もいるし、他人に分かるわけがないと心を閉ざす人もいる。
私の考えは、みんな違って当たり前、他人なんだから完璧に理解出来なくて当たり前、共感できる部分は共感して、共感出来ない時はまずは否定せず、「そうなんだ」とその人の考えを受け止められる人になりたい、と思いました。
相当突飛な考えや命に関わる考え(「人を殺してもいい」等)(そうなると、あなたも殺されても文句は言えない、ということになるけども)は否定するけれど、世の中には色んな人がいて、色んな考えを持つ人がいるから、まずはそういう考え方、価値観の人もいるんだなと受け止めたいと思います。その人の価値観のおかげで、自分の考えや生き方も変わるかもしれないし、絶対正しいと言えるものは世の中そうそう無いと思うので。
作品中の「『あってはならない感情なんて、この世にはないんだから』それはつまり、いていけない人なんて、この世にいないということだ。」という言葉に尽きると思います。口にしてはいけないけど、思ってはいけない思いはない。何を思って、考えても個人の自由。だから、否定しない。難しいかもしれないけど、そんな人になれたら、生きやすい人は増えるのかなと思います。

以上、長々と感想を述べましたが、その他にも読んでいて今までになかった発見や考え方があり、帯文句通り、「読む前の自分には戻れない」と思いました。
個人的に心に響いた言葉は「いなくならないからって、伝えておいてください」。作品の終盤、秘密を共有することになった主人公である夫婦が、お互いにお互いを想って、伝えようとした言葉。こんなことを伝えられる相手がいたら、何よりも心強いと思うし、ちょっとやそっとでは揺らがない繋がりがあって、こんな夫婦になりたいと思いました。

機会がありましたら、ぜひご一読ください。

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