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短編 まっすぐな道



 仕事が終わり家に帰ると、えらく綺麗に直線の道に立っていた。

「この道をまっすぐ行けばゴールさ。」

どこから聞こえた声の主が、誰であるかはわからなかったけれど。

「まっすぐ行けばゴールだな。」

と言って歩き始めた。

この道は知らない道だ。初めて通る道だ。簡単な道だが、退屈だった。


 途中、花を見つけた。

なんて名前だったかと思い出す前に、足が進むので通り過ぎた。
まるで思い出さなくてもいいと言われているかのようだ。

 黄色い傘が落ちていた。

見たことのある傘だと思い、落とし物かと思いながら、また足が進むので通り過ぎた。

しばらく淡々と歩いていると、いつまで経ってもゴールに近づけないことに気づいた。

「おい、嘘っぱちか!卑怯者が!!」

先ほどの声の主に怒鳴ってみたけれど、返事はなかった。
釈然としなくて、歩くのも面倒くさくなって、下向いて立ち尽くしていると。

急に、体の奥の奥の、深い深いところから、あっつい熱が。

ぼうっ!!!っと

湧いてきて。

それに従うように、後ろに向き直して。

走って走って、走って、死ぬ気で走って。


ーーー

 あれから数日。妻と、家の近くの、
懐かしい川沿いを、雨の中、散歩をしている。

病院で、目が覚めた時。
とても久しぶりに妻の泣き顔を見た。

妻が、

「生きててくれれば、何よりなの。貴方がいればそれでいいのよ。」

と。

名前を思い出せなかった花が、道端にさいていた。

妻の好きなたんぽぽ色の傘をさして、家に向かって歩いていく。


結局私は生きたいのかと。

死ぬ気で走った先は生きることだと。

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