三歩

東京ひとり大人と子どものちょうど真ん中

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埋めても潰しても

いつからか心にぽっかり穴があいていた。 はじめはすごく小さくて、気にも留めなかったのに、いつの間にこんなに大きくなっていたのだろう。 それは人のやさしさに触れて温まっては小さくなり、大好きな人と夜通し語り合っては埋まっていくけれど。 つい長居しちゃってごめんねって言ったら、そんなの気にせずいつでも来なよって笑うから、ぴんと張っていたはずの糸が我慢をやめて、切れそうになるからさ。おねがい、あんまり優しくしないでよ。 ひとり暮らしのマンションに帰る朝はいつも、なんだかもっ

    • 給料日 蕎麦 

      給料日ってだけで簡単に1ヶ月分の疲労を忘れるし、おろしたてホヤホヤの現金を手にすれば口角は勝手に緩んでしまう。なるほど私という人間は思ったより単純に作られていたようだ。 華の給料日には、1ヶ月頑張った自分を労うことにしている。誰に言うでもなく1人で美味しいものを食べに行くのだ。 このために働いていると言っても過言ではない。食べることは生きることだ。 ちなみに今月は神楽坂にある、ミシェランにも選ばれた名店のお蕎麦屋さんに決めていた。目の前で茹でられたばかりの蕎麦は行儀良く

      • 挫折は人を強くするのか、はたまた

        大学受験に失敗して無計画に家を出た、 このまえの春からもう1年。 東京生活にも慣れてきたところで、ようやく人生初の大事な挫折に向き合う決心がついた。 よくある田舎の進学校で、盲目にも最難関と呼ばれる類の大学を目指していました。 結論から言えば、不合格でした。 短い人生の、決して短くない時間を机に俯いて過ごしてきました。「不合格」のたった三文字で、なんだか全てが馬鹿らしく思えてしまった。 何のために、歯を食いしばってきたのか 爪の食い込んだ拳から血を流したのか 全部、

        • 傲慢と善良 [読書感想]

          2024 1/26(金) 読了 「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掴みたいだけなのに、なぜ、と。」 小野里さんが言っているのは、紛れもなく自分の事だった。人間心理のあまりにも的確な表現に思わず動揺した。 傷つくのも傷つけるのも、何かが今とは変わってしまうのも、全部ただただ怖いんだ。見て見ぬふりをしてきた感情が晒されて身動きが取れなくなった。それでも自己愛

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        埋めても潰しても

          前は本気だったの

          昔はもっと、良くも悪くもまっすぐで純粋だった。いつだって本気だった。 危なっかしいほど。 一体どこで変わってしまったんだろう。 いつから、先回りした保身が、失敗した時の保険が、癖になってしまったのかな。 何の防具も身につけず裸のままで闘った。 だから簡単に傷ついた。 両足は、厚い鎧で身を固めないことには 立っていられないくらい震えていた。 心臓は、重圧に耐えかねて、動きを止める 時期を窺っているようだ。 気づいた時にはもう涙が零れていた。 真剣な努力が報われず否定さ

          前は本気だったの

          誰でもいいから、ぜんぶ肯定してよ。

          もうむり、って言ってただ全部投げ出したいのに、まだやれる、もっと頑張れる、って無理矢理言い聞かせては、また息を止めていた。 全然頑張れてないって追い詰めようとする自分と、頑張ってるよえらいねって誰かからの全肯定だけを求めてる自分が確かに共存してて滑稽だな、と。 ちゃんと笑えない。ちゃんと優しくできない。ちゃんと、自分でいられない。 息がくるしくて吐きそうだ。 助けてって泣きたいのに、厄介なプライドが邪魔をしてそんなこと誰にも言えないから。 報われるかも確かじゃない"い

          誰でもいいから、ぜんぶ肯定してよ。

          2度の痛さ

          今年の初雪は2度目の共通テストからの帰途だった。尋常じゃない寒さに思わず気温を調べてしまうほどの、2℃ 耳とか鼻とか顔の出っ張りという出っ張りが物理的に鋭く痛いので、後悔とか自己嫌悪とかの鈍い痛みを隠すのにぴったりだ。 手ごたえは?って聞かれたって、折れたシャー芯2cmで必死こいて埋めた渾身のマークシートが、どうか採点されてますようにと祈るだけで。そんなうまくはいきません。 諦めたくなったら、始めた理由を考えろ。 2つ以上の選択肢は難しい方を取れ。 どうやらそんな精神論

          2度の痛さ

          星の王子さま [読書感想]

          2024 1/6(土) 読了 「いちばん大事なものは、目には見えない」 すとん、と尻もちをついた時に似た感覚の衝撃と共に落ちてきた。 いちばん大事なものってなんだろう。 気づくとまたそんなことを考えていた。 お金、地位、見た目、学歴、 目に見えて重要だ、と取り憑かれたように錯覚しているそれらすべて、王子さまの言う"ほんとうに大事なもの"ではきっとなくて。 そんなくだらないことに執着して、目に見えない大事なものをちゃんと大切にできない大人にだけはなるもんか、と強く強

          星の王子さま [読書感想]

          実在した天使のおはなし

          僕がまだ18歳だった頃に出会った、ちょっと変わった女の子の話をしようと思う。 愛を一身に受けて育ってきたであろう彼女は、どこまでも怖いもの知らずで世間知らずで、あまりにも無知だった。まっさらな君が、僕にはひたすらに眩しくて、羨ましかったんだって今なら言えるのに。 人を疑うことを知らず、優しさと愛嬌をそのまま形にしたかのような彼女は、ただ純粋に人を愛し、人に愛された。 君の曇りのない瞳が、はち切れそうな笑顔が、どれだけ人を惹きつけるのか。自分に向けられる優しさは全部が全部

          実在した天使のおはなし