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【掌編】行け!怖い話検証部(怖検)

「この話は知り合いから聞いたのだが…」

俺が話し始めると彼女は(副部長)呆れた様子で言った。
「…でたわね、(聞いた)なら人からに決まっているのにこの意味の無い導入…はぁ?と思わせて結局思考を奪うものだわ。まぁいいわ続き聞かなきゃと停止するものね…」

まあ彼女の言いたい事はわかる。
完全に昔話の枕だ。
おじいさんが山へおばあさんが洗濯する様なものだ。
しかし川に行くことで桃を発見するのだ、あながち無駄ではないし格式美でもある。
北島三郎の「与作」で与作が機を織り女房が木を切ったらシュールで面白いが。
「まぁそう言うな、この始まりは最後に繋がる大事な部分なのだ。怪異の起源などをわからなくさせる目的があるのだ。」

「秘技〝アレが何だったのかわからない〟ね」

狭い部室で電気を消し蝋燭を灯して怪談を語る2人は文芸部なのだが、最近変な方向へシフトしているのを感じていた。
俺『墓地裏 赤光』(ボチウラ シャッコウ)はオカルトものが大好きでいつの間にかこんなふうになってしまった。
副部長の『七柱 ミサキ』はその事が気に入らないらしく俺の創作怪談やオカルト全般を大否定してくるのだ。

多分怖いからだと思うが…そんなわけで俺は部長の威厳も相まってミサキ君をやり込めなければならないのだ。
さてどんな話しで怪異を信じなければならない様にしてやろうか?

私の名前は『七柱 ミサキ』(ヒチハシラ)オカルトの類が嫌いだが部長に一目惚れしてしまった1年下の16才、眼鏡男子が好物の現実主義者。

部長は背も高く成績も優秀でイケメン!
本当の事を話したいけれど上手くいった所で怪異の話ばかりされるんじゃアタシの青春がオカルトに染まってしまう。
アオハルが血で染まってしまう。
だから絶対に怖がらないし否定すると誓った。

「どうせ作った話し何か怖い訳ないと思いますよ部長、全部ウソなんですからね」

「…ミサキ君…これはかなりの信ぴょう性のある怪異でここからでも行ける距離だ、今からなら自転車で逢魔が時に着けるだろう。」

突然のデート?馬鹿じゃないの?そんなの乗る訳ないじゃない!それは…嬉しいけど、最初は場所も時間もアタシが決めるのが今後の関係を円滑にするのよ!
それになんで初デートが心霊スポットになるのよ!
「…アタシ今日電車なんですけど?それにそんな嘘くさい話には乗れませんね」
「いや、まだ言ってないだろ?後、責任持って俺の電動自転車で送るので法令とかじゃなく安心して欲しい。ヘルメットは無いが…」

アタシは結局部長の電動自転車にまたがった。
恥ずかしまぎれに強く言った。
「…それで何が出るんですかっ?どうせ嘘に尾ひれがついたまやかしでしょうけど!」
女性らしく横に座るべきかもと思ったがあまりにも不安定で部長に抱きつく様な体になるのは防がなければいけない。
「足だ。」
部長は静かに答えた。
「巨大な足が天井から降りて来るらしい。」

それ本所七不思議の足洗い屋敷だ!
アタシはオカルトは嫌いだが霊感が強く実は詳しい。
おばあちゃんが元イタコなのだ。
だから怪異が存在するのは知ってるけど恋人との間にあっていいものでは無いし、アタシの望む青春にオカルト成分は必要ない。
絶対に部長に怪異体験をさせてはならないのだ。

「足が出たらなんなのよ?大体根拠が無いわ」  自転車を漕ぎながら部長は言った。
「巨大な足が天井板を踏み抜き暴れるのだが目的は(足を洗わす)事らしい」
キキッ〜!
「着いたぞ…」部長のブレーキでアタシの顔は背中にめり込んだ。
「…っ痛!もうっ!部長言ってよ〜」部長はオカルト好きなだけで霊感ゼロ。
オカルトメガネだ。
アタシの青春の為に部長を正常に戻すのだ。
確か足洗い屋敷の怪異は足を洗えば消え失せるその正体は古狸の類だった筈。
アタシは鞄から消毒様のアルコールを手に持った。要はキレイにすれば良い。

其処は少し大きな廃屋で封鎖されるべき扉のチェーンは錆つき腐ちていた。
暗い中に入ると
バキバキ!と天井を突き破る毛むくじゃらの足が現れ「足を洗え〜!」と大声を出している。
所が霊感がゼロの部長には破れた天井とその破片しか感じ取れないらしく、アタシはと言えばその足にアルコールを噴射してキレイにした。
もちろん部長に気づかれない様に。
「…ミサキ君!危ない!」飛び散る破片からアタシを守ってくれている。(…好き♥)と思ったが先ず次々に現われる汚い足を消毒していった。
「部長、怪異何かじゃ無くてただボロいだけじゃないですか?」
やがて轟音は止み夕日が廃屋内に差し込んだ。

帰りは荷台に横乗りで部長の腰に手を回した。
「…部長守ってくれてありがとうございます」
恥ずかしくて最後はゴニョゴニョになった。
「何か言った?大きな声で言ってよ」

乙女の純情がわからないオカルトメガネめ!
耳に向かって大声で

「怪異何て大キライっ!」と叫んだ。








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