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【掌編怪談】まわる

仄暗いオフィスで俺は1人で残業していた。
どうしても朝までに終わらせないといけない案件だった。
何とも薄気味悪い…天井のエアコンから鳴る筈の無いような音、いやあるいは何かの声にも似る異音が時折鳴る。
パソコンの画面をにらんでいる視界の外から得体のしれない何かが一瞬ひらめく気がする。

恐怖心が不気味な静寂が俺をおかしくしていくようだ。

それというのも定時で帰る先輩がこんな事を言って帰ったからだ。
「なぁ、お前って霊感ある?」
だってよ。
聞き返すとはぐらかされたが気になるじゃね〜か!
急いで終わらせて帰ってやる。
廊下は節電の為に真っ暗で消火栓の赤い光がぼんやりと灯っている、その時光が動いたのだ!
「うわっ!」思わず声をあげてしまった!

警備員さんの持つ懐中電灯と消火栓の赤い光が混ざっただけらしい。
「残業するなら届けて下さいね、電気の消し忘れと思いましたよ」初老の警備員は静かに言った。
「…すいません、もうすぐ終わりますので」
俺はバツが悪くなって頭を下げた。

幽霊の正体見たり枯れ尾花だ、怖いと思うから怖いのだ。
最後の段階に入り時刻は1時を少し過ぎていた。
ここに来て地下の資料室に書類を取りに行かなければならなかった。
急激な電子化は成功したがバックアップはまだ紙の状態で保管されていたのだ。

信じられない!こんな夜間、1人で暗い階段を降り資料室へ行く何て。
この作業の為に明日は休日扱いなだけが俺の心を奮い立たせた。
懐中電灯を握りしめ非常階段の扉を押した。

ギィ〜
普段誰も使わないのでその空気は停滞しているかの様だ、重く生温い。
自分の足音が階段に響きわたり、手摺のゴムはベタつく感じがして尚、薄気味悪い。

資料室の中に誰かいたら?

そんな妄想がよぎる程、恐怖心に囚われていた。

生唾を飲み込みレバーハンドルを倒した。
センサーで電気がつくので幸い誰も居ないことがわかった。
安堵したがLEDでは無いので薄暗いのは変わらず少し動かないと勝手に消えるので手早く資料を探して1秒でも早く立ち去りたい。
おまけにうず高く天井まで積まれたりしていて俺の動きをセンサーが感知出来ずに突然暗闇になったりする。
ちくしょう!使わない部屋だからって設備投資をケチりやがって!
怒りはしばし恐怖心を薄くした。
資料が見つかり何となく部屋の端に視線をやった時にそこのセンサーだけが一定の感覚で点灯している事に気がついた。

故障しているのだろう、何秒かで消える設定はありえない。まあそれは良いとして
何を感知してる?誤作動か?
何で点灯する?

ひらひらと白い何かが壁から生えては伸び、そして縮んでいる。
布?アレは軍手だ!
魅入られたのか俺はそれから目を離せなかった。
軍手が通るとセンサーが感知しスポットライトの様に照らされる。
伸び縮みしているのでは無くて何処か中心にまわっているのだと気付いた!
右の軍手が上のほうをゆっくり右から左へ…
左の軍手は下の方をだらんと力なく右から左へ…

そしてズレたヘルメットから覗く黒い眼窩か瞳部分には白目がなく、何処を見ているのかわからず右から左へまわるのだ。
俺は自分が大声で叫んでいる事もわからないまま気を失った。

朝がた気を取り戻した俺は警備員室で寝ていたらしい、助けてもらったのだろう。


「資料室に行くとは思わなくてね」と話しだした。

あの場所は何度もお祓いしたのだが変わらず使わない部屋として資料室になっていたのだ。

この社屋が建った際に落下事故で若い作業員がなくなった。
高所からの事故で落下地点に太い鉄筋が立っており、凄惨なものだったという。

腹から右腕に串を打った様に突き刺さり、その衝撃でくるくるとオルゴールの人形の様に回転していたとの話だ。

いくつもの内臓が潰されたがその時点でまだ作業員は生きていた。が、いかんせん救出に手間取り長く苦しんで亡くなったのだ。
そしてその場所はパイプスペースだったので壁を通り抜けた幽体は見え隠れしていたのだ。

彼はまだ暗闇の中で無念を抱えてゆっくりとまわっているのだ。

太い鉄筋を軸にしてくるりくるり

今もずっと…

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