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1004分の1と置いてけぼりだった2分の1

鏡の中の自分

 

夜、寝る前に歯磨いてるときとか、朝起きて顔を洗うときとか、鏡を見るよね。
その鏡の中の自分をどんだけ見ても、自分が見つからないことがある。
そんなこと君にもあるよな?
俺はそういうこと結構あるよ。穴が開くぐらい見ても、ちょっと好きになろうと思って角度変えてみたりしてさ。でも見つからないんだ。
飯食って、寝て、起きての繰り返し。
無だ。無だ。無だ。
そんな日常の中じゃ自分は見つからなくて…でも今日ここに立って、君の顔見たら見つかったよ。俺は、鏡の中見るよりも、ここに立って君を見る方が自分を見つけられる。

Sphery Rendezvous 大阪二日目ラストMC

 話し始めた最初は、他人事だと思った。思いたかった。「なんかまたこいつ変なこと言い出したぞ」って藤くんの言葉に笑ってた。でも話が進むにつれて笑えなくなった。涙があふれるとかそんなことでもなかった。ただただ自分のことみたいで、立ち尽くして聞いているしかなかった。藤くんはステージに立って歌っていたら、僕の顔を見たら自分を見つけられると言ってくれた。僕はどうだろうか。自分を見つけられているんだろうか。「鏡を見て、自分が見つからない」抜け殻みたいな自分しか映ってない感覚はいつからか分からないけど、僕にも確かにあった。

言いたいことは言わないで紛れこんだ18祭

 2022年、僕は18祭に申し込み、ありがたいことにあこがれの人と共演した。願ったことすらない夢が叶った。応募が始まった時にはまだライブにも行ったことがなかった。18祭の存在も知らず、BUMPが出ると聞いてから調べてみた。ワンオクやRAD、あいみょんと共演する、僕と同じくらいの世代の人たち。泣きながら、笑いながら、色んな表情があった。初めて見たとき、素直に感動した。あいみょんの涙にもらい泣きだってした。番組のファンだったわけではないけど、こんな場所に大好きなBUMPと立てるなら応募しない選択肢はないと思った。何よりも会ったことのない4人に会いたいというのが一番大きかった。
 テーマは「自分のこと」パフォーマンスとメッセージの約1分の動画を送るらしい。会いたいだけで始まってしまった試みは、だんだん苦しくなってくる。気づいてないフリを続けさせてはくれなかった。自分には他人に誇れるものなんて残っちゃいなかった。当時の自分は12年続けていた水泳も辞め、特に夢もなく、ただ学校に行って帰るだけの日常を送っていた。バイトもしていない。明確な夢に向かって努力しているわけでもない。本当にただ一日一日終わるのを眺めてる毎日。それが本当の自分だった。好きなものならどうだろう。サッカー観るのが好きです。どうパフォーマンスするんだ?BUMPがずっと好きです。きっとほとんどの人がそうだろ?特技はどうだろうか。水泳をずっとやってきました、でも今辞めてますじゃ格好つかないよな。英語は好きだしそれなりに頑張ってきたつもりだ。でもどうパフォーマンスする?もっと喋れる奴なんてたくさんいるぞ。段々、「選考に通るためのパフォーマンス」を考えてしまっていた。結局たどり着いたのは、「歴史が好きなので勾玉を作りました」という動画。作業風景を動画に収めて、30秒ほどにまとめる。編集技術がなくても大丈夫、小学校の自由研究で一回作ったこともあるし失敗もないだろう。他の人とも被らないだろうしユニークだろうな。歴史が好きなのは嘘じゃない。動画内で話したこと、見せたことにも偽りはない。でも、残ったのはどこまでも汚く打算的で、本当に見せたい自分の欠片も残ってない自分だった。そんな汚いところが自分なのかもしれないとさえ思った。

得意な事があった事 今じゃもう忘れてるのは
それを自分より 得意な誰かが居たから
ずっと前から解ってた 自分のための世界じゃない
問題無いでしょう 一人くらい 寝てたって

才悩人応援歌

 一次、二次と選考は進み、練習会への参加で正式に僕は18祭6期生になった。練習会には本当に沢山の人がいた。同世代なのにもう夢に向かって歩いてる人だらけだった。行動に移している人、自分の夢、考えをしっかりと他人に伝えられる人。みんなキラキラして見えた。みんなそれぞれパフォーマンス動画を送っているわけだから、当然その話にもなる。僕は自分のこと喋ってるのに誰か別の人のこと喋ってるみたいだった。
 練習会の中で、ホワイトボードか紙だったか、自分の夢を書き出して共有する時間があった。選ばれた何人かがカメラを向けられながら自分の夢を発表していく。政治について語る人、過去のつらい経験を、泣いていてもまっすぐ伝える人。夢に立派とかないけど、それぞれ自分にしかない宝物を発表していくのを聞く中で焦りと、尊敬と、「平凡じゃない何かになりたい」というどうしようもなく平凡な願望が溢れてきた。僕は「世界で活躍したい」そんなことを書いたような気がする。歴史好きなんかよりもっと奥にある、『色んな世界を見たい、国を飛び越えて生きたい』という思いをまとめたらこうなった。今だから思うけど、この時に違う選択をしていたら、僕は二度と自分を見つけられなかったかもしれない。自分には眩しすぎる夢を持った大勢の中で、夢を持てていない自分を出すことが、自分には勇気のいることだった。世界で活躍ってフレーズはアスリートとかミュージシャンとか目指してるとでも思われたのだろうか。発表者に僕は選ばれた。もっとうまく話せたかもしれないし、もっと伝えなきゃいけないことがあったかもしれない。それでも僕は、夢を持てていない現状、自分だけどこにも向かえていない、周りへの劣等感を吐き出した。本当はもっと早く言いたかった。何にもない自分と向き合った言葉。
 
見て見ぬふりをできたつもりでいた、「自分のこと」
4人に本当に伝えたかった、空っぽな自分。

昨日と明日に毎日挟まれて 次から次の今日 強制で自動更新される
痛くない事にした傷が 見失わない現在地 ここから歌うよ

窓の中から

明日生まれ変わったって結局は自分の生まれ変わり

 BUMPに出会った8年前の2016年、僕は小学校5年生から6年生に上がる年だった。いじめにあったり、友達だと思っていた人がそれによって離れて行ったり、正直あまり思い出したくないこの年は、同時に大切な4人を見つけた年でもあった。僕の曲の好みに合うと思って、父が『Butterfly』のMVを見せてくれた。当時はただ気分が上がる音が好きで、歌詞の意味なんか分かるはずもなくひたすらリピートした。そんな聞き方でも、「明日生まれ変わったって結局は自分の生まれ変わり 全部嫌いなままで愛されたがった量産型」という歌詞だけは、この時は何故だか分からないまま刺さっていた。なんとなくだけど、自分を肯定されたような気持ちがした。
 朝が来るのが憂鬱だった。嘘みたいに綺麗な朝の空を嘘であって欲しいと思った。具合が悪いと嘘をつき、ずる休みをして家に残る日も多かった。家に誰もいないのに部屋の隅で隠れるようにゲームをした。その時のBGMとして傍にいたのもBUMPだった。
 たくさん助けてもらったけど、藤くんはあの日「君だって君を見つけられただろ?」と言ってくれたけど、僕は自分のことをまだ見つけられてない。前より仲良くなれたけど、まだ鏡に無視される日がたくさんある。
自分のことは自分でしか見つけられないから、藤くんが見つけられたように、僕も自分で見つけないといけない。たまに力を借りながら。

あんまり笑えそうにないまま 昨日から今日を明日に繋ぐ
曖昧な自分の手を支えながら 夜を渡る
太陽を遮った街路樹 削れて砕けて届く光
すぐ消える小さい輝きが 肩に踊る
懐かしい唄みたいだった
誰かの涙みたいだった

木漏れ日と一緒に


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