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誰かが体験した奇談。其六『ドッペルゲンガー』

友人が語る『ドッペルゲンガー』

中学生の頃の話なんだけどね。
友人がコーヒーを飲みながら話す。
世の中には7人の自分と似た人がいるって話があるでしょ。そんな話なんだけど。
僕の知り合いに、ある宗教の若い人たちのグループを一生懸命に作っている奴がいたんだよ。まぁ、その宗教の事はどうでもいいんだけど。
中学生のころ、そいつが熱心にあるグループに参加しないか、お茶を飲んで話したり、たのしくキャンプするんだと誘われたんだ。
女の子もいるってことに反応はしなかったんだけど、あんまり熱心だったからついいくことになった。お試しだね。

その集合場所は結構家からは離れていた。10キロはあったんじゃないかな。そいつは親の車でいくって言ってたからどうでもいいんだけれど、僕は自転車。平坦な道だったからそれほど大変ではなかったけれど、知らないところに行くのはあまり好きじゃなかったな。

その家は、古いけれど普通の家。白木でできた玄関戸をからからと引いて開けるタイプの古い家。地図にあるとおりにたどり着いた。
表札をみてここで間違いないよなと呼び鈴を押した。
「はいっ」と女性の声。
女の子が玄関を開けた瞬間、その子の顔が曇った。
「えっ。なんでここにいんの?」
馴れ馴れしいというか、明らかに嫌がっている感じにむっと来た。
「呼ばれたから来たんだけど」
「うそぉ、あんた呼ばれたのぉ」
いきなりだった。知らない女の子が怪訝な顔をして僕を見ていた。
どうしたらいいのかわからない。僕はパニック寸前だった。

どうしたのと、奥から女の子が二三人やってくる。
「えー」
「なんで家知ってるのよ」
「××。どうしたの」
やがて奥から僕を呼んだ奴が出てきた。「おー、来たか」
不思議そうな顔をしている女の子をしり目に、そいつは僕のところに来て上がるように進めてくれた。
居間には何人かの女の子や男の子がいた。お菓子が出され、仲良くしゃべっていたようだった。
僕の顔を見ると会話がピタリと途切れる。
「こいつは僕の知り合いの〇〇君。よろしく」
僕はぺこりと頭を下げる。
驚いた顔の女の子が言った。
「××じゃないんだ」
女の子がつぶやくように言った。
それからが大変だった。聞けば同じクラスに××というやつがいて、そいつが僕にそっくりらしい。他人の空似どころではなく、体型から顔、髪型まで同じだというのだ。
「ねね、なにかしゃべってみてよ」
「なにをしゃべればいいのかな」
それだけで女の子がざわめき立つ。
「声までおんなじやん」
「そっくり。嘘みたい」
××というやつがどんな奴かは知らない。でも、女の子には人気がないのがわかる。
僕はパンダになったような気分だった。僕の事ではない、知らないやつの話で盛り上がる。
次も来てよと女の子は明るい声で言った。ほかにも友達呼んでおくわ、と彼女は言った。

もしもしドッペルゲンガーだったら、出会ったら死んでしまうんだっけ。乗り換えられるんだったかな。そんなことはありえそうにないけれど。
でも、こんな近くに僕とおなじ顔、同じ声を持った人間がいるというのは珍しくないかな。そんなのどこかブラジルとかにいるんだと思ってた。

友人はからからと笑った。
その集まりにはもう二度と、行かなかったらしい。もし××を呼んできて会っていたらどうなっていたのか。ちょっと興味はあったらしい。

それから大学を卒業するまで、ごくたまに誰かと間違われることが二三度あったという。

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