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オレ的エレカシ感想記:『愛と夢』(前編)

エレカシの『愛と夢』。
私が2枚目に買ったエレカシのアルバムにして、最も……、最も悶絶したアルバムかもしれません。
今回は、全11曲中、6曲目までお送りしようと思います。

概観

発売がいつとか、何枚目のアルバムだとかは、先達の方々もいらっしゃるので割愛。早速ですが、感想を書いていきます。

まず、全体を通して思うのは「タイトルがドンピシャすぎ……」! ずばり、これです。
私は、彼らが若いころ(~2002-2003頃)のエレカシのラブソングでは、「赤い薔薇」「月夜の散歩」ならびに「かけだす男」あたりが大好きなのですが、そちらの方はなんとなく地に足着いたというか、「赤い薔薇」でほのかに香るヤンデレ感を置いておけば、比較的現実でもありそうな恋の歌かなあと思っています。

ところが、このアルバムは違う。まさに『夢』。
特に「good-bye-mama」「愛の夢をくれ」「ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ」「おまえとふたりきり」の、この圧というか……重く、甘い、がんじがらめで、しかもどこまでも熱烈。夢の中にしかない愛を追い求め、体現し、そしてまた希う。暗く破滅的な香りと、純粋にきらめく真っすぐな思いを両立させた、唯一無二の作品たち。
そんなことを感じて、虜にならずにはいられませんでした。

もちろん、ここに挙げなかった7曲も大好きです。
初々しく、優しさや、切ない視線を感じる歌詞に、若き宮本さんのガツンと透明感のある声がベストマッチですよね。
近い時期の名盤として著名な『ココロに花を』や『明日に向かって走れ-月夜の歌-』、そしてその後の(おそらく世間一般のイメージする「エレカシ」だと勝手に思っている)『俺の道』『STARTING OVER』などとはまた違う、ともすれば意外な”愛”、そして”夢”の世界に触れることができるアルバムです。


1:good-bye-mama

タイトルで「?」と思った方、正直に挙手を。
……「ママ?」ってなったの、私だけですか?

しかし、曲が始まると、想像していた雰囲気とのギャップに惹きつけられます。
イントロではまず、ノイズのような音に不安な予感がよぎります。
そして、短調の短いギターフレーズで世界観が展開されたところに、切なげな宮本さんの声! 少し残響が強くなるようなエフェクトをかけているのでしょうか? 高音の部分が少し割れ、青くハスキーな響きが入るのがいいですよね。また、短調から始まったメロディーが、歌詞の展開とともに明るいコードに変わり、歌詞にリンクした、徐々に明るくなるようなイメージを持たせてくれます。

そして間奏でまたイントロと同じフレーズに。ここではクラベス(拍子木みたいな楽器)のような音でリズムが入りますが、ダークなメロディーに急に軽いサウンドが入るので、個人的にはちょっとびっくりするポイントでした。
ちなみに、口笛のほうは、比較的穏当な展開で変化していく曲のメロディーに対し、短いながらも緩急のついた、アウフタクト的な対旋律で、よいアクセントに。聞くたびに「ああ、いいなあ……」と思ってしまいます。
あれは宮本さんの口笛なのですかね?

そして、歌詞も……最高じゃないですか?
いえ、もちろんエレカシの歌で、「歌詞が最高じゃない曲」なんてないんですが……
具体的に言いますと、サビ部分の歌詞が、文字通り「デーデ」の時代の宮本浩次と例えば「ズレてる方がいい」なんかの境地に至った宮本浩次の間の世界観、価値観の中間地点というか、グラデーションの真ん中あたりに位置する世界なのではないかなと思うのです。

私は、ずばり宮本浩次、ひいてはエレカシの魅力として、
「うつろいゆく人生」
を体現していることを挙げたいと思っています。

長いキャリアの中で、ヴォーカルの歌声も、歌詞のメッセージも変わる。そしてまた、みんなの外見も変わっていってますよね。
しかしながら、そこには同時に、変わらない4人の関係、歌詞に内包された、変わらない人間観、生活を眺めるひとりの人間としての視点が、まぎれもなく存在しているのではないでしょうか?

(宮本さんは”YouTuber大作戦!”で、「無理くり論語を原文で読もうとしていたけれど、訳された状態で読むということにやっとたどり着いた」というようなことを話していたと思いますが、エレカシの歌詞の表現もまさにそんな感じで変わってきていたんだと勝手に感じています)

そう思いながら聞いてみると、「金」も「愛」も「自由」もごく爽やかに、軽やかな動作で天秤にかけられ、「ぼく」がそのまま未来へ駆け出していくようなこの「good-bye-mama」は、この時期ならではこそ……のように思えて、個人的にはぐっとくる曲のひとつなのです。

2:愛の夢をくれ

この曲は、「ヤバい」。正直な話、その一言に尽きます。
もしまだ聞いたことがないという方がいらっしゃったならば、是非、今すぐ、聞いていただきたいと思います。公式のYouTubeにMVが公開されていますので……。

いやあ、MVもとってもいいですよ。うーん、ガイコツマイクも似合う。是非ご覧あれ。

さて、アルバムタイトルに一番近い、実質的には表題曲なのでは? というこの「愛の夢をくれ」。
こちらの曲も、イントロは暗めの印象。

そして、冒頭の歌詞で、もう……撃ち抜かれますよ。
一度ドキッとしてしまえば、そこからは、暗いメロディーに不穏な演奏、ひんやりと冷たく、なのにどこか甘えるような宮本さんの声。熱烈で、それでいて醒めたような、けれどやはり……ひたすらに心から愛を、満たしてくれと渇望する歌詞。矛盾するようで、でも何ひとつとして矛盾していない、最後の一言にすべてが収斂されていく切実な夢。この曲を構成するすべてに絡めとられて、果てのない魅惑の闇へと誘われてしまいます。

正直、私が抱いていたエレカシのイメージには、このような歌なんてまったくなかったので、初めて聞いた時の感想としては、「こんな曲あるの!?」といった素直な驚きが。でも、この曲をはじめとする『愛の夢』のビターで熱い恋の歌に、エレカシの魅力の幅広さ、宮本さんの愛すべきロマンチストとしての一面を感じ、また一歩、沼の底へと足が進んだことは間違いありません。
何回聞いても、悶えてしまう一曲です。

3:君がここにいる

3曲目のこちらは、イントロで既に明るい予感が。
前奏は短く、清涼感のある宮本さんの声が爽やかに始まります。

全体的にピアノやタンバリンで軽やかに、細かなリズムが刻まれていて、ノリもよいだけでなく、なんとなく安定感のようなものも感じられます。

そして、個人的に大好きなのは、2番の歌詞。
こんなこと、言われたいと思ってしまいませんか?
「僕」と「俺」との一人称の揺れも、「君」に語りかけているからなのかなあって思うと、いじらしくて笑みがこぼれます。 

もしかしたら、「僕」(俺)と「君」の恋路は順調ではないのかもしれません。
でも、諦めないよ、というまっすぐな思いが伝わってきて、甘ったるさは皆無であるものの、確かにそこにある……透き通って熱い、いたわりさえも感じさせるような決意が見えるのが魅力的です。

前の2曲は少し湿度高めでしたが、こちらは、すっと聞き流せそうなくらいに軽く抑えつつ、耳を傾ければ優しいぬくもりと、開いた窓から流れてくる風の、ほんのすこしひんやりとした温度を感じます。
「恋」が「愛」に変わる少し前って、こんな感じなんですかね。

4:夢のかけら

出ました! 「夢のかけら」です。
これは、私は先に聞いたことがあったので、ここに入っていたのね、と納得の一曲でした。

この曲は、1番の最初の歌詞がエビバデ界ではとっても有名で、愛されているフレーズだと思うのですが、いかがでしょうか。
何回聞いても、嘘つきという言葉にはヒヤッとするものがあります。淡々とした宮本さんの声が、取り返しのつかないものを運んでくるのではないかって思ってしまうんです。

「君がここにいる」にもネコは登場していますが、宮本さん猫好き説がありますし、なんとなく微笑ましくもあるんですけどね。

その後の歌詞も、決して明るい結末が見えてきそうにはないというか、聞く人によっては、すでに破綻した恋を振り返っているように聞こえるのではないかと思います。私は歌を聴くとき、具体的な場面や会話を考えるほうではないのですが、2人の関係は(ストーリーの)途中で終わってしまったのかな?派で、最初が別れの場面かな……なーんて考えています。最後の和音は少し明るくて、後ろ向きで終わるわけではないのかな? という余韻も残りますね。

そして、注目ポイントだと思うのが、この曲、「俺」が労働しているんですよね。働いている。そこにどうしようもなく、流れていく生活の日々、遠ざかる思い出の日々、といった時間の存在が突き付けられて、散った恋の愛おしさや、あるいは、「今なら……」という後悔が滲んでくる構図が素敵です。

恋の歌を歌いつつ、労働とか生活を見つめる視点が通底しているという部分は、やっぱり宮本さんの特徴的な価値観というか、人間というものを丸ごと、意図的にリアルに、生々しく見ている彼がやっぱり好きなので、それを実感する曲でもあります。

ちなみに、「夢のかけら」もMVがありますね。コインランドリーの形態に時代を感じます。
ただこちら、それにしても宮本さんの横顔をこれでもかと堪能できる、素晴らしい映像です。宮本さんは童顔という印象がありますが、思いのほかすっと凛々しい鼻筋に、まるい鼻の頭がなんとも好バランスで、かわいいだけでなく、美しい宮本さんの横顔をたくさん見たい人は是非どうぞ。


5:ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ

……まず言わせてください。好き。
比喩ではなく、私はこの曲を聴き、MVを見ると、悲鳴が出ます。
正視するのに支障が出るくらい好きなのです。
だって、この宮本さん、最高じゃないですか? いえ、彼はいつでもなんでも全部最高なんです。知ってますが、これもまた格別。この時期の髪型もまたやってほしいなあって思います。
私の場合、理想の男性像を聞かれたら、このMVを提示する場合も考えられますね。

ただ、察しが悪すぎて、MVのストーリーは全くわからないのですが……。
わからなくて大丈夫なやつですか、これ。でも、せっかくならもっとメンバーも映してくれてもいいと思うのは、わがままでしょうか。

曲について語っていきますと、分類的には「愛の夢をくれ」に似ているという印象があります。MVもなんとなく似ていますし。個人的には、『愛と夢』の中でも2トップかも。
しかし、「ヒトコイシクテ、~」は、歌謡曲の香りを感じるメロディーラインが特徴的です。フレーズの終わりが上下する感じとかですね。
ちょっと渋い、一癖ある感じに、私は心を掴まれました。
後々に歌謡曲をカバーしたり、ソロでそのような雰囲気を持つ曲を書いたりしている宮本さんですが、もっと前からやっていたんだなあ、となんとなく嬉しくなったりします。

歌詞も冒頭からストレートに始まります。
このフレーズ、いいですよね。冷たいのにロマンティックなところは、やはり「愛の夢をくれ」にも近いところがあります。
この年代の宮本さんの声は、どこか硬質で淡々とした、あるいはふてぶてしい感じもありますが、それなのに、明らかに、人間の熱さも感じられるから不思議です。

特に私が好きなのは2番なのですが(なんだか「特に2番が好き」という曲が多くて自分でも不思議です)、ここで私は「男」の繊細さに胸打たれてしまいました。このナイーブな感じに、うっすらと宮本さん自身の性質も現れているような感じがして、「この人、意外とこういうところあるのね」みたいな、ベタだけど王道なときめきも感じます……。

全体的に不穏、かつ、歌謡曲っぽい、少し劇的な曲の中に、繊細な男の心の揺れが合わさって、アンバランスなようでいてしっくりはまっている。エレカシの奥深さです。

6:真夏の星空は少しブルー

これもまた、なんて美しいタイトルだろうと思います。
星がたくさん輝いていて、その光が眩いせいで、夜空が少しだけ明るく、ブルーに見える感じなのでしょうか。夏になったら、また星空を見上げて確かめてみたいな、なんて思います。

口笛でスタートし、こぼれるアルペジオのような前奏が少し入ってから、抑えた宮本さんの低音。想像以上に低音域も広く、響きが潰れるどころか、下にじっくりと広がる感じで、沁み込むように聞けますね。
メロディーは最初が少し暗くて、低い声の響きが映えるだけでなく、ふたりは一体、笑っているのか、泣いているのか、思い詰めているのか、どうにもこちらからは伺えないもどかしさ。
ただ、曲が展開してからは、すくなくともふたりは、思いを通じ合わせているんだなと感じられて、ちょっと安心します。彼らが寄り添う情景が歌詞から浮かび、優しいあたたかさがふたりを包んでいるような感じがします……。

そして、ここにきて、タイトルのフレーズが鮮やかに差し込まれます。「ま」の響きがとても広く、ぐっと引っ張られるように、暗いけれども眩い、濃いけれども真っ黒ではない、少し青い星空と、それと同じ色をした夜の空気が、聞いている私たちをも包んでいくような錯覚。最後はふたりとも、星空の下、夜が明ける前に消え去ってしまうのでしょうか……。


ちょっとしたまとめ

11曲全部を紹介しようと思いましたが、すでになんと5000文字を超えておりますので、ここで一旦終了とします。私の卒業論文は約3万字でしたので、そう考えるとかなりの量を書いてしまいました。
ただとにかくこのアルバムは、「エレファントカシマシ=熱い感じ? 行け行け頑張れ! 男だぜ! みたいな?」という先入観が強かった私にとっては、まさに運命の分かれ目というか、出会えてよかったと思う作品なのです。
そういうわけで、その魅力の一端でもお伝えできればと思ってのレポになっておりますので、すでに「『愛と夢』大好き!」な皆さんはもちろん、「まだ聞いたことないかも」という皆さんにもご覧いただけたらと思います。

後半も、ぼちぼち書いていけたらと思いますので、よろしくお願いします。

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