2023年シカゴ・ジャズ・フェスティバルに行ってみた!

画像出典:https://www.facebook.com/ChicagoJazzFestival/

シカゴ・ジャズ・フェスティバル

シカゴ・ジャズ・フェスティバルは、レイバーデイ前の週末に4日間かけて、シカゴのダウンタウンにあるミレニアム・パークで毎年開催されています。2023年は8/31~9/3の開催でした。

なんと無料! 

なぜ無料なのかというと、 The City of Chicago Department of Cultural Affairs and Special Events(DCASE、シカゴ市の77の地域のアーティストや文化組織を支援し、誰もがアートにアクセスできるようにすることを目的とした公的組織)に加え、複数の企業がスポンサーになっているから。

2023年のスポンサーは、シカゴ交通局(CTA)、ダウンビート誌、ラジオ局など。毎日、演奏の前に、スポンサーへの謝辞がありました。

演奏が始まる前にスポンサーへの謝辞が述べられる

ジャズ・インスティチュート・オブ・シカゴ

シカゴ・ジャズ・フェスティバルのプログラム作成や運営は、ジャズ・インスティチュート・オブ・シカゴが担当しています。ジャズ・インスティチュート・オブ・シカゴは1969年にジャズ・ファン、ジャーナリスト、ジャズ・クラブ運営者、ジャズ・ミュージシャンなどにより設立された非営利組織で、HPには組織のミッションが掲載されています。簡潔にまとめると以下のようなものです。

・ジャズの遺産を守る
あらゆる形式のジャズを育み促進させ、過去のミュージシャンの偉業をたたえ、現在のミュージシャンにスポットライトをあて、未来のミュージシャンたちが進む道を輝かせることを目的としています。

・シカゴのミュージシャンの育成・支援
シカゴの公立学校にジャズのカリキュラムを導入し、ジャズ指導者やミュージシャンを教育機関に派遣し、教育目的のコンサートを実施するために文化施設や行政機関に働きかけるなどの活動をしています。

・シカゴのジャズ・コミュニティの構築
ジャズ教育やイベントによって、シカゴのジャズ・コミュニティへの参加者や支援者の輪を広げてきました。

驚くべきことに、これらのミッションを実現するための教育プログラムやイベントの9割が、公的機関や民間企業に支援されているため、無料で開催・実施できているということです。

今回、アメリカを旅行するなかで、「アートや、アートをめぐる教育は、万人に開かれているべき」という信念が、シカゴだけではなく、アメリカ全体で共有されているのを感じました。芸術が、一部のエリート層、知識人層、富裕層のものなのではなく、みんなのものであるべき、という考え方です。

シカゴ・ジャズ・フェスティバルに4日間参加して、地元の人々だけではなく観光客をも巻き込んで、ジャズを中心としたコミュニティが築かれていくのを見ることができました。ジャズ・ファンだけではなく、ジャズについて詳しくない人々をにもジャズの魅力を伝えていくイベントになっていることを実感しました。

シカゴ・ジャズ・フェスティバルは、万人に開かれているとはいえ、地元に根付いたイベントでもあります。地元出身のミュージシャンたちや、シカゴ市のジャズの教育プログラムによる支援を受けてきた若いミュージシャンたちにとってのショーケースにもなっています。

日本にいると、ジャズはアメリカの音楽、という印象がありますが、アメリカにいると、各地にローカルなジャズ・スタイルやジャズ・コミュニティがあるのが分かります。アメリカの各地域で開催されるジャズ・フェスティバルでは、そういった各地域に根付くローカルなジャズを聴くことができることも魅力だと感じます。

2023年シカゴ・ジャズ・フェスのラインアップ

4日間、午前11時から夜の9時まで、複数の会場で数々のバンドが演奏します。

2023 シカゴ・ジャズ・フェスティバルのプログラム

プログラムの顔ぶれを見てみると、日本でもよく知られたミュージシャンもいます。たとえば、ロン・カーター、手術で急遽キャンセルになってしまったのが残念でしたがダイアン・リーヴス、つい先日ブルーノート東京でも演奏したブランディー・ヤンガーや、マカヤ・マクレイヴンなどです。

世界的な知名度はないものの、地元の人々に愛されてきたミュージシャンや、地元の中高生のジャズ・バンドも演奏します。

シカゴ・ジャズ・フェスティバルのプログラムは、アメリカらしく多彩な顔触れが集うように意識されて作られています。たとえば、

・あらゆるジャズのスタイルが集うようになっている
ニューオリンズジャズ、ビッグ・バンド、ハードバップ、アバンギャルドなど、誕生期から現代にいたるまでに育まれてきた多様なジャズ・スタイルが集うように組み立てられています。

ジャズという音楽を、一つのスタイルによって代表することはできないのだなと改めて実感。複数形のジャズを体感することができます。

ちなみに、2023年のプログラムにはアバンギャルドやフリー・ジャズのバンドが少ないという批判もあったようです。

・幅広い年代のミュージシャンたちが集うようになっている
高校生から年配の奏者まで、あらゆる年代が参加するように意識されています。初日に演奏したチコ・フリーマンのバンドには、チコの叔父であるギターリストのジョージ・フリーマンが参加していましたが、なんと96歳。

10代から90代まで、年齢においても多様性を見せるようなプログラム構成が魅力的です。

・人種や民族においても多様にしようとしている
ジャズはアフリカ系アメリカ人の人々により生みだされた音楽ですが、いまでは、人種や民族、国境さえ超えて、様々な人々によって楽しまれている音楽です。

シカゴ・ジャズ・フェスティバルのプログラムもまた、アフリカ系アメリカ人の伝統・遺産であるジャズへと敬意を払い、シカゴという地元におけるジャズの伝統を尊重しながらも、同時にジャズを人種や民族や地域を超えて広がる音楽として見せていくという課題と取り組んでいます。

地域でいうと、今回のプログラムの中には、シカゴ周辺や、シカゴのサウス・サイド出身のミュージシャンたちが多くいました。同時に、アフリカなど、海外のミュージシャンたちも出演します。

人種や民族についていえば、少数ですがアジアや中南米に出自あるいは祖先をもつミュージシャンたちのバンドも演奏しました。

・女性のミュージシャンたちも
人種や民族の面で多様になっているとはいえ、ジェンダーの観点から見ると、ジャズがいまだに男性主導の音楽ジャンルであることは否定できないと思います。歴史的に、女性は歌手としてのみジャズ・コミュニティに参加することを許されてきたのだとしばしばいわれます。

今回のシカゴ・ジャズ・フェスティバルでは、歌手以外の女性楽器奏者(サックスやベース奏者)も散見され、ジャズ界が変化しつつあるのだと感じました。

ジャズという音楽ジャンルがジェンダー平等を達成するためには、まだ時間がかかるかもしれません。でも、ここ数年で、特にアメリカでは、音楽界におけるジェンダー意識が一気に変わってきているのを肌で感じます。



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