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ポルトガル 日に客2組だけのレストランと赤ワイン

 仕事で関係先を訪ねた時の素晴らしい経験、そして、今でも忘れられない赤ワインと出会った記念すべき日の話である。

 朝からの打合せが一段落してちょっと遅めの昼食時、訪問先のオーナーが素敵なレストランを予約してあるから行こうと言う。道すがらの説明によると、ワイナリーを営んでいるその地方の資産家が経営している店で、午餐と晩餐それぞれに一組の予約だけを受けるのだそうな。

 どんな店なんだろうと期待して到着すると、葡萄畑の中に普通の倉庫のような建物がポツンとあるだけ。促されて中に足を踏み込んでみると、そこで収穫した葡萄を絞っているらしく、微かに甘い香りが漂っている。

 地下へ案内されて驚いた。ひんやりと薄暗い小部屋がず~っと続いて、その室内の棚に並べられた樽の中ではワインがひっそりと熟成する日を待っているって感じ。特に、若いワインにとってこれ以上の自然環境はないそうな。但し、雑菌の侵入を防ぐ為に我々が部屋へ入ることは許されなかった。

 ここから更に下へ降りると、とても落ち着いた調度品で統一されたレストランに達する。テーブルや椅子、並べられた食器、飾られた花や周囲の装飾品、どれをとってみてもしっとりとした佇まいを醸し出している。ゆったりと座れる空間を確保した室内で一組だけが食事をとる、それが日に二度だなんてなんと優雅なことか・・・

 料理はこの地方の名物、レイタオン(仔豚の丸焼き)とその血で固めたソーセージ入りのリゾットをメインにとても美味しかった。しかしながら、特に印象に残ったのは、クワトロ-ベントシュ(四つの風)という名の赤ワイン。その香りと味わい、のど越しの際の余韻が素晴らしいものだった。

 すっかり魅了されて、当時リスボンで唯一の百貨店で探しまくり、普段飲むものよりかなり高価ではあったが、やっと見つけて特別な日の為に買い込んだ。しばらくして調達に行くと品切れ、店員に聞いても”無い”とそっけない。地方のメーカーで生産量も少ないのか、なかなか手に入らなかった。

 次のシーズンが始まり、やっとクワトロ-ベントシュに再会するも微妙に値段が違う。ポルトガルではワインの出来栄えによって正直に値段が異なり、その味わいも当然変わる。お気に入りのワインが安いと喜んで大量に買い込むと、期待外れでガックリ来ることがある。ポルトガル人の同僚が、いつも同じ味わいで大量生産し、輸出もされるワインに関して ”あれはマジックだ” と笑っていたが、シーズンによって飲む銘柄を変えることはよくある話。

 少々不安もあり、1本だけ購入して恐る恐る飲んでみたら全く変わらず美味しい。安心して再度出かけて、箱買いしその後も大いに楽しんだ。お気に入りのワインの一つとして帰国時に持ち帰り、酒類合計でかなりの税金を払った記憶がある。

 その後も、出張するたびに購入し続け、或いは色々な関係者にお願いして入手していたが、残念ながらここしばらくは味わえていない。懐かしい友人との再会を楽しみにして、いつかポルトガルへ買い出しに行こうかな・・・


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