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続けるか未定の小説「わたしは庭を迂回する」#1

わたしは庭を迂回する。

せねばならない。
わたしの家は掃き出し窓が玄関代わり。掃き出し窓って言ったら友達がぽかんとしていたので説明を加えると、庭に出るためのでっかい窓だって言ったら、ああ、と納得してくれた。
でも続いてなんのこと?といった顔していたから説明を加えると、家の玄関には今大きなゴミ袋がたくさん積んであるから、玄関から出入りできないの、と言ったら、ああ、と納得してくれた。
そんなの捨てればいい。わたしもそう思う。けれど、お母さんが捨ててくれないから。だったらあいちゃんが捨てればいいんじゃないの?って返されたからまた説明してあげるとまあちゃんが、こっそり捨てればいいんじゃないの?って普通に返された。
なるほど。一理ある。
わたしが計画を頭の中で練っていると、まあちゃんがねえねえとわたしに呼びかけた。
しつこいな。
わたしは機嫌が猛烈に悪い。
玄関にゴミが山積みになっていて入れないのは分かったよ。炊き出し?窓から入るってゆうのも分かった。でも、炊き出し窓から入るには庭を通るんじゃないの?庭を迂回するって庭にもゴミいっぱいあるの?
しつこくなかった。説明不足。ごめんねまあちゃん。
庭にはね?犬がいるの。三匹。わたしを見ると襲ってくる犬。柴犬と洋犬の雑種とあとなんだったかな。なんとかコッカースパニエル。
注射受けてないから噛まれると危ないらしくって。なんか一匹は口からヨダレいつも出てるし怖いからやめなって。近所の佐藤さんが言ってた。
まあちゃんは変な顔をした。
「あいちゃんのお家ってそんなテレビでやってるようなゴミ屋敷だったっけ? 多頭飼い?ってほどでもないか。三匹なら。でも、三ヶ月ぐらい前に遊び行ったよね? その時は普通じゃなかった? お母さんもわたし羨ましいって思っちゃったくらいなのに」
なにが。
「若くて」
わたしは涙が出るくらい笑った。
まあちゃんが変な顔した。
「いつの間に犬」
「ほんとそれ」
まあちゃんが変な顔をずっとしていた。

まあちゃんと別れた。
帰宅後わたしの気配を察知して吠え始めた犬たちにびびりながらダッシュで庭を迂回した。かなり狭いが、隣の家の敷地に建っている、潰れた家とボロボロのビニールハウスの間をなんとか抜けていくと、家の裏手まで出れるのだ。庭は普通には入れなくて、理由はさっきの犬がいるから。多少無茶なルートを通る必要がある。こっち側からなら、今も吠えているけど、柵があって犬も来られない。これは元々あった柵。なんか庭に出るための。よくあるでしょ?これいる?必要ある?って感じの木目の柵。アレ。
わん!わん!わん!わん!
わん!わん!わん!わん!
こあい。

小さな窓はトイレの窓でそこには脚立が置いてある。四段の。
それをよじのぼる。
窓はあらかじめ開けておいてあって、便器の蓋もいつもこうして下りやすいように閉めてある。
一応言っておくと、朝は犬たちも寝ているため掃き出し窓から出ていっても問題ない。もちろん靴は放置していると翌日には消えているから、こうして家の中に入れておく。なぜ朝と夕とで変える必要があるかといえば、単純にわたしが脚立を下りるのが怖いからだ。
こあいこあい。
わたしはなるべく下を見ず、脛を段差にぶつけるくらいにぎゅっと押し付けるようにして脚立を上がっていった。そうしないと怖いからだ。
おかげでわたしの脛は今痣だらけ。

一番上につく。身体をもぐりこませる。

そんなわたしの一挙手一投足をお母さんが見ている。

トイレの扉開け放たれていて、そのすぐ外側にお母さんが立っている。なにをするまでもなくってんじゃないね。わたしを見ている。

お母さんが言う。
「どこ行ってたの?」
わたしが応える。
「学校」
お母さんが言う。
「わたしも学校行きたい」
わたしが応える。
「だめ」
お母さんが言う。
「なんで? あいちゃんだけずるい」
わたしが応える。
「ずるくないよ」
お母さんが泣く。
「すん……すん……すん」

わたしはお母さんの脇を通り過ぎた。リビングからは金切り声と言い表してもおかしくないくらいの、廊下でこうして聞いているだけでも卒倒してしまいそうなくらいのお母さんの泣き喚く声がしている。それを宥めるお母さんの声とあとなんか……猫らしき鳴き声……。また増えてる。いいけど。犬より猫の方が好きだし。

「ただいま」
「おかえりなさい」「あー!!」「よしよし」「すんすん」

左から順に九十二歳のお母さん。たぶん二歳か三歳か四歳のお母さん。六歳のお母さん。八歳のお母さん。

左から順に解説すると収集癖のあるボケたババァ……じゃなかったお母さん、赤ちゃんのお母さん、お姉さんぶりたいお母さん、犬猫拾いまくっておばあちゃんやおじいちゃんに大迷惑掛けてた頃の一番やばかった時期のお母さん。

お母さんが分裂して一週間が経過する。
見た目そのまんまで。
わたしは言う。
「せめて中間が欲しかったなあ……」

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