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”教養(Liberal Arts)”の授業用、「十字軍」に関するノート(2)

2.1.  ウルバヌス2世の演説 「神がそれを望んでおられる」

・セルジューク朝イスラム帝国の侵攻に押されたビザンツ帝国(東ローマ帝国)はローマ教皇に救援を求めた。要請を受けたウルバヌス2世は、教会とローマ皇帝との力関係を逆転する良い機会だと考えた。
・自分の演説で民衆・諸侯を焚きつけたらみな動くのではないかという計算が働いたのでる。その程度までには、キリスト教は浸透していた。
・クレルモン公会議での演説で、「神がそれを望んでおられる」と、十字軍によるエルサレムの奪還を呼びかけたのである。

2.2.貧民十字軍

・この呼びかけにまず答えたのは、貧しい民衆であった。なぜ、彼らは遠いパレスチナの地まで命の危険も顧みず十字軍に参加したのか?

・それは、十字軍に参加すれば全ての罪を許され天国に行けると、ローマ教皇に約束されたからである。
・当時、キリストの死後1000年以上経っており、そろそろ最後の審判の日が近いという考えが広まっていた。最後の審判で、永遠の自分の魂の住処が決まるのである。(天国行きか、地獄行きか)
・彼らの多くはろくに準備も武装もせず出かけたが、神が何とかしてくれる、もし死んでも天国行きだと楽観的だったのである。

・貧民十字軍は、民間の宗教指導者「隠者ピエール」に率いられて、正式な十字軍(諸侯の十字軍)より、先に出発する。
・ビザンツ帝国はこの風変わりな一段の到着に困惑するが、厄介者払いの
ように、イスラム圏へ送り出す。
・イスラム圏では、当然のように屈強なイスラム軍に殲滅され、貧民十字軍は雲散霧消した。わずかに生き延びた者は、1年後に追い付いてきた十字軍本体(諸侯の十字軍)に吸収された。

先行した人々の末路 ドレ History of the Crusadesより 『絵で見る十字軍物語』p.29

2.3. 諸侯の十字軍

ウルバヌス2世の呼びかけに答え、諸侯の十字軍が1年後に出発する。神聖ローマ皇帝とフランス王が不参加のために「諸侯の十字軍」と呼ばれた。この十字軍に参加したものの動機はいかなるものであったのか?

・すでに述べた貧者たちの動機と同様、贖罪も魅力的ではあったであろうが、財産を相続できない貴族の2男,3男の参加が多く、彼らは領土的野心を持ち、一攫千金を狙っていた。聖地エルサレム奪還という純粋な動機のものもいたであろう。罪人も新しい人生を求めて参加していた。
・要するに、全員が同じ動機で参加したわけではなく、様々な人々が様々な動機で参加したのである。ただ一つ赤い布で十字を服のどこかにつけるということだけは統一されていた

様々な人々の様々な動機

2..4. エルサレム奪還

諸侯の十字軍と相対したイスラム軍は放った矢が全く無力なことに驚愕する。彼らは、鎖かたびらの上に、鋼鉄製の甲冑をまとっていたのである。


鎖かたびら


鋼鉄製の甲冑

・イスラム軍が立てこもる城塞都市攻めは、攻める十字軍は野営なので、長期間にわたると食料不足や体力消耗を伴う。
・対するイスラム側も一枚岩ではなく、セルジューク朝や、アッバース朝、ファーテイマ朝が覇を争う戦国時代であったのだ。
・第一回十字軍は、とてつもない苦労を重ね、多くの犠牲者を出しながらも何とかエルサレムの奪還に成功する。
・エルサレムに入場した、十字軍は城内を略奪し、多くのイスラム教徒を殺戮したと言われている。それらの行為は、彼らにとっては、聖地を奪回し浄化するものであったのだ。

第2回まとめ

ビザンツ帝国から救援要請を受けたローマ教皇ウルバヌス2世は、皇帝との力関係を有利にするために、十字軍を発議する。貧民、罪人をも含む様々な人々が、贖罪、富・領地の獲得など、様々な目的で十字軍に参加し、多大な犠牲を払いながらも聖地エルサレムをイスラム教徒の手から奪還する。

”教養(Liberal Arts)”の授業用、「十字軍」に関するノート(3)
では、イスラムの英雄サラデインがエルサレムを再度イスラムの手に取り戻す史実を取り扱った映画 Kingdom of Heaven を紹介します。


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