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※という人もいるという話

センシティブな話題のため、気に障る表現があれば申し訳ありません。
ただ、タイトルの通り「という人もいる」ことであり、万人に当てはまることではありません。

最近SNSで、イジメに関する話題を度々目にする。そしてしばしば見られるのがイジメられる人も悪いという意見である。
良識があり、赤の他人に物怖じせず自分の意見を言える人はこの考えを言った人を強く糾弾する。
当然と言えば当然である。

ただこの意見の言わんとすることもわかる。
イジメを行う人間が100%悪いということは大前提として、そのイジメのきっかけはイジメられている側から発生することもあるだろう。
そのきっかけが善行、悪行問わず、ままあることだとは思う。
イジメの問題を解決するためには目を背けられない部分である一方、今イジメられている人が「あなたが悪い」と捉えられかねない意見でもあるため、SNSで気軽に話すような考えではないとは思うが‥。

ここからは※という人もいるという話だ。
万人に当てはまる話ではないと改めて述べておく。

高校時代の私の友人だが、彼は天性のイジメられる才能があった。
なんと残酷な話だ、と感じられるかもしれないが、当時同じコミュニティにいた人間は彼をイジメているという感覚はなかっただろう。
なんなら彼自身も気付くのに時間がかかったほどだ。
その彼をAとしよう。
Aはシングルファザーの家庭で育ち、父親は韓国人だった。
ただ、それだけでイジメられる理由にはならない。令和に差し掛かろうとしていた時代の高校で、生まれや家庭を理由にするイジメは中々起きないだろう。
ただ、Aには天賦の才があった。
どんなイジりに対しても100点の回答ができるのである。
在日韓国人であることをイジられた際には
「俺の血はキムチでできてへんねん!」という韓国にルーツを持つ人間以外の口からはとても言えないようなキレキレの返しをしていた。
大阪の高校では面白いことが正義であり、それがエスカレートしてイジメに発展してしまうことがしばしばある。
その典型的な例だったのだろう。
Aを雑にイジって、Aの抜群の返しでウケをとる。
雑にイジった人間がなぜか誇らしげに胸を張る。
私のクラスではこれが毎日繰り返されていた。

「片親やからおふくろの味とかないねん!!」
爆笑
「なんにでもキムチかけて食べると思ってんのか!!」
爆笑
「不細工なやつでも韓国人やねん!KPOPだけで韓国語んな!!」
爆笑

生まれ、家庭、容姿、全てのイジりにAは完璧な返しをしていた。

だんだんとエスカレートしていってAの成績などについてのイジりも始まったが、それに対してもAは爆笑を生む返しをしていた。
Aの容姿や成績が平均より上であったこともこんなことが起きた理由の1つだったのだろう。
不細工にブスというのはわかりやすいイジメだが、フツメンにブスというのはイジりと受け取られる。

「韓国人が昔の日本なんて知るわけないやろ!!」
爆笑

ある日、私はAと二人きりで話す機会があったため、あんなふうにイジられるのは嫌じゃないのか?と聞いた。時折私も笑っているのになんと自分を棚に上げた質問だろうか。
その問いかけに彼は「どうでもいい。」と答えた。
思えば最近SNSでクラスの連中とAが遊んだりしている投稿を見ていない。
「笑ってる時点であいつら俺よりおもんないからな」 Aは続けて言う。
「笑わせてやってんのにそれもわからんとか、もうどうでもいいわ」
Aはクラスメイトを明確に下だと見下すことで、気持ちを保っていた。
そしてそれは割とすぐに崩壊した。
Aの返しがスベったのである。
それでも多少は笑う人はいた。
イジった人がさらにAがスベったことをイジる。
Aは「お前のイジりがおもんないからだろ」と返す。
今度こそ教室は静まり返る。

この日を境にAをイジるクラスメイトはいなくなった。そしてAに話しかけるクラスメイトもかなり減った。
好き放題イジってウケを取れなくなったら、用無し。A本人から仲良くしたいという意志がなかったこともあるだろうが、酷い話である。

とはいえ受験シーズンに差し掛かっていた時期の出来事であったため、クラスで浮いてる人がいたとしても勉強に集中していたら目立つことはない。
Aは勉強に集中できるからちょうどよかったと言っていた。

時間は流れ大学生になり、2ヶ月くらい経ったとき、高校から荷物が届いた。卒業アルバムである。
印刷所などの都合なのか私の学校の卒アルは卒業式に配布されない。
パラパラとページを捲っていると、クラスで一番〇〇な人というランキングをまとめたページに目がつく。
カッコいい人、可愛い人、頭が良い人、なんとなく予想できるやつらがランクインしている。
そして最後に面白い人。
そこにAの名前はなかった。
Aをイジっていたやつらがトップにランクインしていた。
そこでようやく私は気付いた。Aが被害者意識を持っていなかったことや笑いが取れていたことから目を逸らしていたが、あれはやはりイジメにだったんだ。
油性マジックでランクインしている名前に横線を引いてAの名前を一番上に書き、写真を撮ってAに送る。
Aは「笑」とだけ返信をくれた。
その後Aとは時々連絡を取り合い、飲みに行ったりする仲になった。

それはともかくとして、大学生3年生になったとき、私はスニーカーショップでアルバイトを始めた。
偏見ではあるが陽キャって感じの人が多い職場だった。
事務所で出身地の話をすると、
「〇〇ってことはめちゃくちゃ上品な生まれやん!」というなんとも言えないことを言われた。
「ええ、ナイフとフォークで給食食べてましたもん」と私は返す。大ウケした。

その日からバイトに行く度、私はAの高校時代を思い出していた。くだらないイジりをよく言われるようになったのである。
イジりと言われたらイジりだが、イジりではない、少しつらいイジメ。
ラー油みたいな感じだった。
幸いにも私はAほどの才はなく、度の超えたイジりは返せないとわかると普通の後輩として扱われるようになった。
いや、普通の後輩ではなく面白くない後輩として下に見られるようになった。
なんと勝手な話だろう。
ややこしい話ではあるが、イジメとも言えるイジりを受けていた時よりも、そのイジりが終わったときの方がイジメられているように感じた。

Aもこんな気分だったのかなぁ‥と考えながらスニーカーショップで働く。
帰り道、スニーカー関係のニュースを調べる。
もう少しでAIR JORDAN1の人気色の復刻があるらしい。おそらく始発前から行列ができるだろう。

絶対にこの前日に辞めて負担かけてやる!!

これもある種のイジメなのだろうか。


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