チルとイル

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ネットフリックスの『マインドハンター』をようやく観終わった。もとからこうなってしまうのはわかっていたから、ドラマはいままでなんとか避けてきたんだけども、ああ、ついに堰は切られた。この国の裸の監督も観たくはあるが、たぶんまだだいぶ先になってしまう気がする。だってその前に観なきゃいけないものが世界にはあまりにも多すぎると分かったから。

そう。観ながらも、やっぱり自分は時間のことを頭の片隅のどこかで考えていた。僕らをこの小さな液晶からなんとしても離しまいとする、そして文字通りすっかりフリークスにしてしまう、この素晴らしく愉しい恐ろしいシステムは、きっとひとの動きや一日を良くも悪くも変えてしまうのだろうな、と。なぜってひとの一日は誰もが24時間と決まっているからだ。それはもはやカルチャーの時間の奪い合いに近い。音楽を聴きながら映画やドラマを観ることはできやしない(できるとしてもしたくはない)。人生は短く、芸術は永い。

そして嬉しくも悲しいかな、それらは僕らのなかにある、街へ出てゆく気持ちをさらにすっかり奪い去り、ひたすらチルでイルなモードへと促してゆく。ほらほら子どもたちよ、外はあまりに暑すぎるし寒すぎる。だから家でYouTubeを開きなさい。さあさあみんな今日は外食を取り止めましょう。おうち居酒屋の始まり始まり。しかも僕はお店をやっている人間のくせに、それらをどこか悪いこととは思ってない節がある。そりゃそうなるにきまってるさ。天気の子たちはみんな巣に還りたがっているのかもしれない。

だからこそ今の時代、なんであれ、ひとを集める仕事が一番難しい。みんなそのことで苦しんでいる。チルでイルな巣からひとびとを引っぺがして、その重い腰を上げさせることがなんであれ一大事。と分かってはいるのだが。

そうしてあらゆる店は毎月のように展示会やイベントという花火を打ち上げる。SNSは常にそんな花火の残響と煙でいっぱいいっぱいだ。それはさながら空しいドッグレースのようでもある。もちろん僕とて、そんな花火の打ち上げ人であり、走る犬のひとりでもあるのだが、でも時々なんだか妙な気持になる。企画とか展示とか、そもそもなんなんだっけ。そもそも始めたばかりのころは、どんなこころもちでやっていたのだっけ。ああ、煙い。煙すぎる。

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