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「意思決定を分析で支援する」という役割について整理する

いろいろな「支援」がごちゃまぜになっている

「意思決定を分析で支援する」という表現はここ最近増えた気がしている。ちゃんと計測しているわけではないが、数年前に比べると見聞きする機会が増えたのは強く感じている。

ところが同じ「意思決定を分析で支援する」でもやり方がいくつかあり、責任範囲も全く違うのだがどうやらこれらがごちゃ混ぜになっているようだ。

それだけが原因ではないだろうが、データ分析に関わっている人の間でも同じ職名だがやっていることが全然違うし、求人情報の混乱は悪化しているように思えてならない。そこで、どういった役割があるのかを整理しておこう。

前提として、「意思決定者」と「分析者」の2つの立場があり、「分析者」が何らかの形で「意思決定者」を支援する状況を考える。分析者側はさらに役割分担しているかもしれないがそこは主題ではない。

まず「支援」することにどういった違いがあるかをKPIを例にして考え、次にそれぞれの方法について詳しく検討する。

KPIを決めたいとしたらどういった「分析による支援」が考えられるか

最初に、あるマネージャーが売上のKPIを決めようとしていることを想定して「分析」と現在言われている役割がどう支援できるかを見てみよう。

KPIを決めたいので、来期の売上ができるだけ正確に予測できればよさそうだ。となると、必要なデータはまず過去の実績であり、そこに市場全体の状況を加えて来期の売上を予測する、といった状況が考えられる。なお正確に予測することも主題ではないのでかなり単純化していることに注意。

この時「分析者」による支援方法を考えると

1.「分析者」は過去の実績データや市場調査レポートを集める。マネージャーは自分で予測分析を行う

2.マネージャーの「来季の売上がどうなるかを知りたい」という要求に対して「分析者」が来季の売上を予測する。マネージャーはその結果を使う

3.「分析者」が「KPIは〇〇円にするべき」と提案する。マネージャーは受け入れるか拒否するかを決める

と大きく3つに分けられるだろう。

さて、この3つは現状では「分析による支援」とひとくくりにされているが、責任の違いに気づいただろうか。

1.意思決定者の技術的な能力を分担する

まず最初に経営者・PdM・PM・マーケターから営業まで、”ある課題に対する”意思決定をする際に意思決定者が自分で情報・データを集めて分析も行う状況を考えよう。これは日常でもよく見かける風景だ。KPIの例でいうと

「分析者」は過去の実績データや市場調査レポートを集める。マネージャーは自分で予測分析を行う

ということになる。

この際に「分析者」が行うのは彼らが分析を行うためのデータを用意して渡すことだ。いま目標にしている課題の分析(=売上を予測すること)には関与しないので「依頼に基づいて正確なデータを迅速に渡す」が責任範囲となる。

一言で書いているがこの中にはデータを集める、整備する、ダッシュボードにしておいたり抽出のためのクエリを書いてCSVを渡すなどその内容は非常に多岐にわたるので、非常に膨大な仕事量が含まれていることには注意して欲しい。

この役割はシステムを作って正しく動かす、データを使いやすくする、リサーチでユーザーの考えを引き出す、基礎研究として新しい知見を作り出したり知識の蓄積を担うといった収集の専門技術が必要であるが、これは別の誰かが分担することになるのが通常だ。

つまり、「意思決定者の技術的な能力を分担する」と表現するのが良いだろう。

最近「アナリスト」と書いてある中には実はこの役割が中心であることもしばしば見受けられる。しかし今見たようにある問題に対する「分析」に対する責任以前に分析そのものを行っているわけではない。

2.意思決定者の思考能力を補間する

意思決定者が判断するための情報、ただし「〇〇すべき」という選択肢ではなくどうするかを考えるための材料を提供する、というやり方もある。

マネージャーの「来季の売上がどうなるかを知りたい」という要求に対して「分析者」が来季の売上を予測する。マネージャーはその結果を使う

この場合は「要求に基づいた正確な分析・予測を行うこと」を責任として担う。その際「だから〇〇すべき」という提案は行わない。もし行うならまた別の方法である(詳しくはこの次)。

「分析者」が行うのは意思決定するために必要な情報(=インテリジェンス)を作りだして提示することであり、考えることの主体は意思決定者である。つまり「分析者」は「考えることを替わるのではなく補間する」と表現できる。

「分析者」が「分析に責任を持つ人」だとすればこれが本来の役割であるが、日本ではこの役割に需要が無いために現在に至るまでほとんど存在していない。その原因についてはいろいろ考えられるがその話をしだすときりがないので別の機会にしよう。

3.意思決定者に選択肢を提示する

「分析者」が「〇〇すべきである、という選択肢を提案することまで含むやり方もある。

「分析者」が「KPIは〇〇円にするべき」と提案する。マネージャーは受け入れるか拒否するかを決める

具体的な数値に限らず、高い低い、良い悪いなど売上の予測を超えて判断が入ればすべて提案に含まれると考えるのがよいだろう。

この場合は提案が良いかどうかに責任があり、提案の根拠として分析を行うことはあってもその分析自体が評価されるわけではない。なので根拠が「分析者」による勘、経験、アイデアそして偏見だとしても意思決定者が受け入れさえすれば問題にならない。

意思決定者は提示された選択肢を受け入れるか拒否するかを決めることになるので決定はしても考えることの主体者ではない。つまり「考えることそのものを代替する」と言える。

今までコンサルタントが担っているものと本質的な違いはないし、施策の実行も伴えばPMやマーケターだろう。意思決定を支援しているというのもその通りであるが、「意思決定を分析で支援する」としてしまうからややこしいことになっているのではないか。

そして世の中で「意思決定を分析で支援する」と書いてある仕事に求められているのは観測内では8割以上はこの3番目であり、残りは最初のデータを提供する人で、2番目はほぼ無い。

どれがいい悪いではなく区別をして必要な人を探そう

以上、3つの意思決定の支援のやり方についてその内容と責任を見て来た。どれが良い悪い、価値があるないではなく全部違う役割で、そして全部必要だということが伝わっていればよい。伝わっていなければ文章力の低さのせいなので質問いただければできる限り答えたい。

素直に考えれば分析を役割として担う人が必要になるのは手法や技術の高度化や、組織の発展でマネジメントを行うようになり分析に時間をさけなくなったから専門家に任せる、という前段がある。

現在のブームはその前段を全て飛ばして「データを扱う人を入れたら何とかなる」になったことで様々な問題を引き起こしているのではないか。

そして全部を高レベルで出来る人など(特定の個人ならいるかもしれないが組織として自社に集められるほど)いないのでどういった体制を作っていくかが次の論点になる。

役割を整理するのは前準備

この記事では分析による意思決定の支援の形の整理だけに焦点を当てたのでこれだけでは何も解決しない。しかし、先に整理しておかないとどうするかを考えようとしても混乱するばかりだ。

実際にはどう分担するのがよさそうかとか、それぞれに必要なスキルは何かとかまだまだたくさん考えなければならないが、これもいつか書けるようになったら別に記事を書く。別に書く、ばかりで申し訳ないがまとめて書くのは無理があるのでそうする。

1点だけ強調しておくと、「分析」は意思決定を支援するものなので主体的に何かを実現することはない。もし主体的に考えて企画を立て、実行する人材が足りないのであればPdMやマーケターを探すのが先で、あればなお良しなスキルの1つとしてデータ分析をあげておけば十分だ。

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