「データアナリスト」の混乱は「インテリジェンス」の認識不足が原因なのかもしれない

「データアナリスト」はもはや意味を成していないのでは?

最近はデータ活用の意識が高まり始め、ここ数年は「データアナリスト」という職名もよく聞くようになってきた。

ところが、この「データアナリスト」もその定義や使い方が人によって違い混乱が見られる。それも名乗っている当人達を含めて曖昧になっていると見受けられる。

そこで、この記事ではなぜ「データアナリスト」について混乱が生じているのかを考察する。「データアナリスト」について思うところを書き始めたのだが、とても長くなってきたのでいくつかに分割することにした。

なお、「アナリスト」とは「分析する人」なので、「データ分析者」という使われ方もされるが、本記事ではまとめて「データアナリスト」と呼ぶことにする。

また、前提として一般的なビジネスでの状況を想定する。学術研究や学者が政府への政策提言をするような場合や、医者が患者の診断を行うような場合は想定していない。

「分析する人」なのに分析には責任がない謎の職種

「データアナリスト」であるが、どうやら「分析」に責任を持っていないように見える。分析をしている場合でも、特定の意思決定のための分析は対象になっていないか、分析は他の仕事を行うためである。

もう少し具体的に見てみると、次のどれかの仕事をしているということだ。もちろんこれらの仕事だけをしているわけではないが「分析」の文脈で見たときの仕事に限っている。

  • データ抽出:別の人が分析するためのデータを提供する。そもそも分析していないので分析に責任はない。ダッシュボード作成の多くはここになるだろう

  • 研究:データ分析はしているが特定の意思決定に直接寄与する分析を求められていない。調査やリサーチはこのケースが多いのではないか

  • 提案:分析はしているが、提案の内容に責任はあっても分析そのものが評価されているわけではない。言い換えると、結果が良ければ分析の正しさが検証されることはあまりない。「分析」と呼ばれている仕事はここに当てはまりそうだ

つまり、多くの場合「分析する人」とは言いつつも「分析」自体が問題になることがない、という不思議な状況になっているようだ。

「データ分析」の3つの仕事と「データアナリスト」

「データ分析」の3つの仕事を整理するでは 「データ分析」としての3つの仕事には「データ」「インテリジェンス」「提案」があると書いた。

「出かけるのに傘を持って行くか」という目的に対する「データ分析」の役割をこの3つで考えてみると次のようになる。

  • データ:天気図、現地の写真や地図、全国の天気予報

  • インテリジェンス:意思決定者が出かけた際に、その場所や時間で雨が降る確率の算出や濡れた場合の被害予測

  • 提案:傘を持っていくべき/傘は不要という提言

この分け方で見ると、前項で上げた3つの仕事のうち最初の2つは「データ」であり、3つめは「提案」に分類できそうだ。

つまり、「データアナリスト」は「データ」か「提案」の仕事をしている。「データアナリスト」は「インテリジェンス」=「意思決定のための情報を出す(ために分析する)」ことには責任を持っていない。

「データ」はデータエンジニアリング(含むデータ整備)であり、そもそもアナリストという職名が合わないのに使われている。「提案」もマーケターやコンサルタントという職業がずっと前からある。職名と実際の責任にこれだけ大きなギャップがあるのも珍しいのではないだろうか。

ちなみに「data analyst」で調べてみるとこの分類でいう「インテリジェンス」を指していることが多い(ただし、実態としてどこまで「提案」まで行っているのかは知らない)。データは扱うが自分で使うためであり「データ」の仕事への責任は持たない。

「インテリジェンス」の特徴

「インテリジェンス」の定義も書籍や人によって表現がだいぶ違う。とはいえ「データ」「インテリジェンス」「提案」と分けた際に「インテリジェンス」を特徴付けるのは何か、と考えてみると次の点であろう。

  • 意思決定者の要求に答えること

  • 中立を保ち、客観的に分析すること

  • 情報への責任はあるが、施策の結果には責任を持たないこと

比べてみると「インテリジェンス」と「提案」ではまったく責任が違うことがよくわかると思う。

「インテリジェンス」を担う場合に中立な立場で客観的な分析ができなければ存在価値はない。一方、社内でなら人間関係を一切無視して「提案」をすることは難しいし、社外への「提案」に自社の立場をまったく反映させないのは無理だ。

日本では「インテリジェンス」の認識が不足していた

過去数十年間、日本のビジネス界における「インテリジェンス」の存在感は非常に低かった。調査やリサーチという名前では行われているようだが、個別の例であって業界としての認知すらほとんどされてこなかったことでも見て取れる。

その原因はいろいろあろうが、多分あまり必要とされてこなかったのだろう。そもそもあまり興味を持たれていなかったらしい。国家の存亡をかけた戦時でさえ情報に意識が向かず、戦後もその失敗に向き合ってこなかった。しかもその結果は世界でも有数の豊かな国になっているのだからビジネス程度で興味がわいてこなかったのも頷ける。

日本の「データ分析」には「インテリジェンス」が必要なかった

状況によっては分析と提案が非常に近く「インテリジェンス」を認識していなくても済む場合がある。例えば、

  • 分析の結果をシステムに組み込んで自動的に行動に反映させる

  • 問題が局所的で限られたデータを使った分析で直接行動に繋げることができる

と言った場合だ。機械学習とかデジタルマーケティングはこのあたりに該当するだろう。この場合は実際には「提案」の仕事(さらに実行を含む場合も多い)なのだが、分析の結果が強く、あるいはそのまま反映されるために「データ分析」が仕事だと考えているのだと思われる。

そして、近年の「データ分析」はこのような「インテリジェンス」を意識しなくてもよかった領域が中心となっていたのではないか。なので「インテリジェンス」については意識する必要がないまま「データ分析」が続いているのだろう。

しかし、これらはビジネスで行われる意思決定のごく一部にすぎない。これ以外の大半の領域、例えば戦略、人事、リアルのマーケティング施策などのその他の「インテリジェンス」の存在は相変わらず希薄だ。

「インテリジェンス」の認識不足が招いたのが原因では

これらから「データアナリスト」の混乱の原因を考えてみると、以下のような流れに整理できそうだ。

  • 日本では「インテリジェンス」の認識があまりなかった

  • そこに突如として「データ分析」が流行した

  • 黎明期なのであまり区別を考えることなくデータを扱っているからという理由で「データアナリスト」を名乗る人が出てきた

  • しかし意思決定者に「インテリジェンス」の認識がないため「情報に責任を持つ仕事」が成立しない

  • 「データアナリスト」は「データ」だけでは存在感を出せないので「提案」までしないとならないと考えるようになった

  • この流れとは別に、実際には「提案」の仕事であるが、分析の存在が強く出せる領域では「インテリジェンス」を意識せずともよかった。しかしこの人たちは「データサイエンティスト」や「機械学習エンジニア」を名乗ることが多かった

  • その結果、「データ分析をする人」だが「インテリジェンス」の仕事をしていない人が残った

というのがちょっと前まで(肌感としては2、3年前)の主流だったのではないかと考えている。

混乱は収まる様子は見えない

「データ分析をする人」なのだから「データアナリスト」でいいのではないか、という意見もあるだろう。しかし、それだけではもはや話が収まらなくなっている。観測している範囲でもこれだけある。

  • 適当な職名がなかったこともあり、「データを扱う人」も「データアナリスト」を名乗り始める

    • 分析していないがデータを扱っている人

    • 会社に言われたり雰囲気で何となく名乗っている人

    • 名乗ることで得をしようとしている人

  • データサイエンティスト同様に「データアナリスト」を名乗りたい人がその定義をどんどんと広げる

  • メディアも曖昧な定義のままで拡散する

その結果、何が求められているのかがよくわからない求人情報が増えてますます混乱を招いている気がしてならない。

「データアナリスト」ではなく何をしているのか、で見る

こうなってくると、「データアナリスト」について考えようにもできない。なので実際には何をしている人なのか、という点でさらに掘り下げる必要が出てくる。そこで次回は「データアナリストは何をしている人なのか」について考える。

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