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ピノキオピーの全アルバムをレビューする(2021)

※5thFullAlbum「ラヴ」を追記しました!(2021/8/27)

VOCALOIDプロデューサー(通称:ボカロP)の一人、ピノキオピー
(以下敬称略)
活動開始の2009年から12年、ボカロ界でもベテランの域に入り、
数々のヒット曲を出してきました
オールタイムベストを今年3月に発表、
そして8月には新作「ラヴ」が発表されました!
これまでのピノキオピーのアルバムを振り返りたいと思います
知らない方へのディスクガイドになれば…

アルバム単位で述べる前に前置きがいくつかあるので、
飛ばしたい方は目次から飛んでくださいね

自分本位でざっくばらんに話すので詳しく知りたい人は調べてみてね
※曲にリンクが付いており、MVやSpotifyに飛べるようになっています

その前に…
VOCALOIDをアルバム単位で語るということについて

音楽好きにとって、音楽やそのアーティストを語るときアルバム単位で語られることが多いと思います
しかし、VOCALOIDはそのコンテンツの性質上、曲単位でクローズアップされることが多いです
そもそもアルバム前提で曲が作られていないことが多いでしょうし、語る側も「ボカロ曲」というくくりで取り上げがちです
そうのもあって、アルバム単位でVOCALOID曲を語ろうと思うに至りました

なにはともあれ、初めてピノキオピーのアルバムに手を出してみようという方の参考になればと思います!
なにせ、2021年8月現在でオリジナルアルバムが12枚、ミニアルバムやリミックス、ライブアルバムなども含むと15枚、さらにベスト盤とリマスタリングアルバムがありますから…少しでも道しるべになればと思います

ピノキオピーについての雑感

アルバムレビューに入る前にちょっと個人的な雑感を
個人的な話をすると、私がピノキオピー(当時はピノキオP)にハマったのは2012年に投稿された「不思議のコハナサイチ」をニコ動で偶然見たときにひと聴きぼれしたことからでした
VOCALOID曲をそんなに聴いていなかった(というより若干苦手だった)中でコンテンツのイメージが変わるほどに気に入って、そこからずっとピノキオピーを中心に聴きつつシーンもみてきました

さて、いわゆるボカロPのみなさんは様々な方がいまして、ハチは米津玄師に、wowakaはヒトリエを、n-bunaはヨルシカを始めたように
ボカロPがVOCALOIDを離れて別の形態で活動するというのはよくある話ですし、今2021年現在の邦楽シーンにおいて多大な影響を及ぼしています
また、名義そのままに作曲や編曲の分野で活躍されている方も多いです(kzやじん、OSTERprojectなど)
ボカロPの別名義などについてはこちらのnoteが大変よくまとまっています

また、VOCALOIDを使い続け、ボカロPとして活動し続ける方も多くいます
DECO*27、Neru、40mP、かいりきベア、みきとP、sasakureUKなど…挙げたらキリがありませんが、長くこのシーンで活動するボカロPもたくさんいます
さらに(最近のボカロシーンを詳しく知りませんが)、新しいボカロPも次々に生まれ、ヒット曲を出しています
ニコニコ動画自体は昔よりこじんまりとしていますが、ボカロシーンは変化を遂げながら活発に動いているのですね
音ゲーの「プロジェクトセカイ」がサービス開始したことも大きなうねりとなっていると思います
ベテラン勢に関してはこちらのインタビュー記事がおすすめです

で、ピノキオピーは、2009年から現在(2021年)までVOCALOIDを使い続け、平均3か月おきほどに動画を投稿しコンスタントにヒット曲を出す、ボカロシーンの中ではベテランの中のベテラン走者といえるでしょう

そんなピノキオピーの特徴エレクトロポップなピコピコサウンドと、
そこに乗っかる秀逸なリリックです。
ボカロ界における「アイデアの天才」とでもいいますか、一曲一曲の世界観や音像、設定が毎回違うものが出てくるのはリアルタイムで聴いていると驚かされます。同じテーマだとか定型な曲がないんですね。
特に歌詞については言葉遊びや風刺(いわゆる”毒”)を利かしつつ、ネガティブで終わらずポジティブに展開していくさまが上手いと思います
風刺的だったり社会の暗部を歌うんだけど、コミカルだったり前向きだったり、時折余裕のない一面が見えたり…。
歌詞も解釈次第じゃ二重構造が見えてくることもありますね

サウンドも「テクノポップ」と言いましたが、実際はフォークやロック、パンクサウンドから、テクノ、エレクトロ、ブレイクコアなど多岐にわたり、それらが上手くミックスされた音楽性になっています。影響を受けたアーティストにスピッツ、筋肉少女帯、電気グルーヴ、真心ブラザーズと並んでますからそのちゃんぽん具合が分かります。(そういやムーンライダーズのカバーもされてましたね)

そして、もうひとつ大きな特徴としてはライブスタイルにあります
ピノキオピー」本人と「初音ミク」(+ゆっくりボイス)が”一緒に歌う”
この形を自身のアーティストスタイルとして確立しています
ヒット曲をコンスタントに出す方でさらにアーティストスタイルにしている方は珍しいと思います
ライブと言いましたが、もちろん楽曲の時点でそのコラボレーションスタイルは違和感なく成立しています

ピノキオピーの変化

アルバムにはいるまでにまだちょっとだけ…
ピノキオピーの変化について。

名前が「ピノキオP」表記だった2009年~2013年あたりは
サウンド面はテクノポップだけでなくロック色の強い作品フォーキーなバラードなどもありました
一曲一曲がかなり実験的だったとも言えます
「ピノキオピー」表記となった2014年以降はよりテクノ・エレクトロポップ(っていうのかな?)に音楽性が定まり、2015年以降からライブを意識した曲作りとなり、現在のスタイルになりました
ただ毎作変化がみられるのでファンとして目が離せません

さて、ここまで長々と語ってきましたがここからアルバムについて簡単なレビューを書いていきます
よ~し

自主制作1st「ハナガノビール」(2009/9/6)

ピノキオピーの記念すべき1枚目のアルバム。
アルバムの中の代表曲は初のヒット曲といえる「eight hundred」が収録されています
全体的にはピコピコサウンドの打ち込みポップ曲を中心にフォークやパンク風、メロコア風な曲まで、1時間近くありますが飽きさせない並びです。
歌詞に関しても、アイデア満載の言葉遊びや揶揄が詰まっています。ピノキオピーの代名詞の一つである「コミカルな風刺」がすでに出来上がっています。まるでショートショートのような作りの曲も。個人的には一曲目の「あかんぼ」が衝撃でした。生まれてくる赤ちゃん(≒初音ミク?)が未来を夢想する歌、ですからね。どんな発想なの…。宇宙みかんも玉葱もたまらない。

ただ、難点があるとすれば宅録がゆえのMixや音の悪さ、ですかね。ある種のローファイサウンドとしても楽しめますが、「Fireworks」なんかはチューニングあってるの?と思わなくもないです(メジャーアルバム作の「Obscure Questions」で大幅リアレンジされている)。これは次作の「poncotsu」も同じで、この点リスナーを選びそうな気がします。

私のフェイバリット曲は、動画になっていないアルバム曲の
「なんてね。」。吹っ切れた青臭いロックチューンで、社会風刺とそれをものともしない前向きさがあって好きです。この頃のピノキオピーのロック曲はぜひリアレンジされて再評価されて欲しいです。

自主制作2nd「poncotsu」(2010/5/9)

前作から9か月足らずで発表された2作目です。
前作と比べて大幅にギター成分が増えています。いわゆるバンドサウンド。
打ち込みのピコピコ×ギター(ロックorフォーク)、POLYSICSといったら流石に違うかもだけど、ポンコツ天使とかは近いものを感じますね。

歌詞の世界観のヴァリエーションもグッと広がって、物語を沿って社会の映し方の切れ味が鋭くなっている印象です。先ほど挙げてタイトルにもあるポンコツ天使サイケデリックスマイル、この辺りはもう救いようがない"毒”をコミカルな言葉に包みながら投げかけてきます。
そう思えば、おもちゃロボットのようなフォーキーで切ない曲も。

おすすめの一曲として外せないのは「ボーカロイドのうた」でしょうか。これはぜひMVの方を見てみてください。
私は最後の曲、「今年の終わりと始まりを ノラ猫は見ていた」が、
皮肉が鋭くもどこか優しく飄々としているさまが好きな曲です。

ここまでギターが前に出たアルバムはもうこれから出なさそうですね…。
バンドでアルバム再現とかあったらめっちゃいいだろうな~。

自主制作3rd「漫画」(2011/6/12)

※このアルバムは現在廃盤になり、
リマスタリングアルバム「Comic and Cosmic」のDisc1(1~14)に
収録されています

このアルバムはファンの中でも名作と呼ぶ声が多いように思います(私もそう思う)。まさしく初期の名盤といえましょうか。収録曲の中で代表曲は何といっても「腐れ外道とチョコレゐト」。2番手として「からっぽのまにまに」が挙げられます。

2作目から格段に音のクオリティが上がって、ギターの音の歪さが薄まり打ち込み音のヴァリエーションが増え、全体的に優しいサウンドになっています。この中だと「腐れ外道~」が激しい曲なんで逆に浮いちゃってる気もします。

歌詞は、”社会風刺を織り交ぜながらも前向き”というピノキオピーらしさ全開の曲もありつつ、『漫画』というアルバム名の通り、漫画の一話のような曲が多く収録されています。特に、「恋するミュータント」「OZ」の2曲はどちらも切ないストーリーで、2次創作小説も作られていました。

また、ピノキオピーの”マスコットキャラクター”といえる、「アイマイナ」「どうしてちゃん」のテーマソング(元となる曲)もこのアルバム収録です(「アイマイナ」「どうしてちゃんのテーマ」)
こう考えると「ピノキオピー(当時は”ピノキオP”)」というアーティストイメージが確立されたアルバムと捉えることもできます。

私のお気に入り曲は、アルバム曲の「とうめい」「さよなら、たましんさん」、さらに挙げるなら「Comic and Cosmic」で追加収録された「マンネリズム」です。
まず軽快なポップロック、そして”ピノキオ節全開”の歌詞。特に「さよなら、たましいさん」Cメロの歌詞はグッときますね。これらの曲がアルバムの未収録というのはちょっともったいないです。

1st Full Album 「Obscure Questions」(2012/7/4)

ピノキオピーの記念すべきメジャーアルバムです。アルバム初収録もありますが過去作のリメイクも多く、実質ベストアルバムです。入門に適しているかも?
1時間12分ありますが、曲のバリエーションの高さで聴き飽きることはないでしょう。曲単位での紹介はキリがないのでいずれするアルバム紹介のnoteでやるとします。

リメイクで収録されている曲、特に初期インディーズ2作からの楽曲は大幅にリメイクされ、”プロ”のサウンドとなっています。パンクさは失われましたが、かなり聴きやすい音になりました。
先ほど書いた通り、音楽性や歌詞のバリエーションが豊富かつ、ピノキオピーのアーティストイメージの根幹が極まっているような曲選なので、このアルバムは彼のキャリアの一つの到達点とみなすことが出来るのではないでしょうか。

私はこのアルバム収録曲である「不思議のコハナサイチ」でピノキオピーを聴き始め、その次に「ありふれたせかいせいふく」、そんでTSUTAYAでこのアルバムを借りて聴いた思い出があります。もう思い出補正でしかないですが、個人的ピノキオピーベストソングが上記2曲なので、おススメするとすればそれになります。(アルバムよりぜひMVで聴いてもらいたいですが…。)2曲ともに強烈な歌詞のフレーズが印象的です。傑作。

自主制作4th「遊星まっしらけ」(2013/11/17)

※このアルバムは現在廃盤になり、
リマスタリングアルバム「Comic and Cosmic」のDisc2(16~29)に
収録されています

メジャーデビューの1年後、自主制作4枚目のアルバム。
これといった代表曲はないですが、ニコ動ではどれもそれなりの再生数であり、中ヒット集といった感じでしょうか。ちなみに、初めて私が購入したCDがこれでした。

音としては「ピコピコ×ギター」サウンドに定まってきて、全体的にもアップテンポな曲が多く収録されています。曲の世界観はそれぞれ独立しており、エネルギー高い。ただその中でも「かえるたちのうた」や「忘れちゃったのどうして」はミドルテンポのバラードソングとして存在感があります。

正直、アルバムだけ最初に聴くと疲れるかもしれないですね。サウンドも統一感あるし、ってことは初見じゃ飽きてくるかも(あと曲数も多い)。ほとんどアップテンポのシングル曲で占められたアルバムってイメージかな?私はMVを一つ一つ追って見ていたので、その印象が相まって楽しめました。なので先にいくつかの曲を動画で見た方が良いでしょう。

ただアルバム曲に切れ味ある曲が多くて、
1曲目の「ぼくも屑だから」は、サビで”相手”に対して「悪口」を連呼しながら『でもぼくも屑だから』と〆る曲。
忘れちゃったのどうして」は、大人になることで忘却した子供心を問い直すシニカルなバラードソングとなっています。
遊星まっしらけ」は米津玄師がTwitterで良いって言ってましたねちょい昔

私のフェイバリットは「ニナ」。
曲中に挟まる『生きていることが楽しくなったらいいのにな』というさりげないフレーズが刺さります。

自主制作5th「Яereno Collection」(2014/8/17)

2009-2014年の間の、CD未収録曲を集めたアルバムです。B面集?のようなものなんで、オリジナルアルバムとはまた違うかもしれません。
動画にはなっているがアルバム未収録だった曲(M3,M5,M12,M13)、別名義のプロジェクトの曲(M9,M10)、またタイアップ等の提供曲が収録されています。

これはファンアイテム的なコンピレーションのようなアルバムですが、音楽性に広がりがあるので、聴き通しても苦にはならないと思います。ただ、ピノキオピー一発目のアルバムとしてはあまりお勧めしません。

中でも特徴的な曲、「ごりらがいるんだ」はアーケードの音ゲーSOUND VOLTEX用に提供された曲で、まあゴリラの意味は音ゲーマーの揶揄でしょうかね。
解散しちゃったバンド」「とげとげ」は『オーパーツソケット』という架空のバンドをモチーフにしたサイドプロジェクトで、漫画も作られたりしましたが、大人の事情で頓挫してしまったらしいです。このアルバムでは初音ミクでセルフカバーされています。

私のフェイバリットは「ブラックホールヶ丘商店街」。ショッピングモールに乗って変わられた町の昔を思い出す、そんな曲です。「落ちろ 落ちろ 巨大隕石よ ショッピングモールに 願う 願う それで解決するはずもないのに」が印象的なフレーズ。

2nd Full Album「しぼう」(2014/12/3)

2枚目の全国流通のフルアルバム。このアルバムの代表曲は何といっても「すろぉもぉしょん」。現時点でピノキオピー最大のヒット曲になっています。あとは自主制作盤から数曲、動画から数曲、提供曲とアルバム曲という構成ですね。

個人的にはこのアルバムの印象が薄くて…というのも目玉の楽曲がすろぉもぉしょん以外既発曲だったこと、そしてサウンドがほぼ画一的だったからです。ただ、「しぼう」「ラブ イズ オノマトペ」「こあ」のようなサウンドとして新しいピノキオピースタイルを打ち出す曲もあるのでその点面白いと思います。

ピノキオピーといえば「すろぉもぉしょん」のイメージが強く、『人間賛歌』『ダメなところも認めて前向きになる』と言われることが多いですが、他の曲をよく聞いてみればかなりシビアな曲が多いのが分かります。
(追記:いや、普通に皮肉や社会風刺が上手いともいわれとるやんか…)
たりないかぼちゃ」はファミマのハロウィンソングとして書き下ろされた曲なのに、歌詞の内容が消費社会批判的でありながら『踊る阿呆に見る阿呆』と一歩引いてみています。結構好きな曲。
他にも「ヒーローが来ない」「よいこのくすり」もその類ですね。

アルバム全体として「ピノキオピー」としてのスタイルが安定している時期で、この時期の曲が好きな方にはおススメです。

自主制作6th「Antenna」(2015/12/31)

自主制作の6枚目。曲数や長さ的にはミニアルバムに値します。
このアルバムはピノキオピーの実験作であり転換点となるアルバムといえます。

一番の特徴は『合成音声と人間ボーカルの融合』の試みです。
人間のコーラスが入る「東京マヌカン」「モチベーションが死んでる」、
逆にピノキオピー自身がメインで歌い、初音ミクがコーラスに回る
ポリゴンティーチャー」、
ゆっくりボイスとピノキオピーの掛け合い「昨日、パンを食べました。」、
そしてアルバムのクライマックス、ピノキオピーと初音ミクがともに歌う
アンテナ」。
これらの試みが、さして違和感なく、むしろ曲としての強度が増して感じられます。インタビューで読んだ記憶では、BUMPが初音ミクとコラボするなどボカロ外からのコラボはあるのにボカロ界側は人間とVOCALOIDの共演が少ない(ないわけではないで!)と感じ、ライブ活動を始めたことも相まってこういう作風に挑戦したんだそう。
この「人間と機械音声の共演」スタイルはこの後のピノキオピーの標準スタイルになっていきます。

サウンドも全体としてミニマムになり、音数が絞られより洗練された感があります。また、ギターは薄れ打ち込み要素が強くなっています。歌詞もより達観に近いものになり、特に「アンテナ」は人生を俯瞰的に語るような内容で、年を経て共感できるようになりました。

必聴アルバム、とまでいきませんが、ピノキオピーがちょっと好きになったならばぜひ聴いていただきたい一枚です。

3rd Full Album「HUMAN」(2016/11/23)

メジャーから3枚目のアルバム。
代表曲は「頓珍漢の宴」「すきなことだけでいいです」「きみも悪いひとでよかった」。

このアルバムの特徴は、タイトルに「HUMAN」とあるように
ヒト=ピノキオピー自身の歌唱が前面に出ていることでしょう。
ライブを行うようになり、ライブでDJしながら歌うというスタイルに合う曲を意識して作られています。私も2016年春頃に京都VOX HALLでライブを見に行きました。懐かしい。

で、「ボカロのアルバム」と思って聴いた人は驚くかもしれません。なんとピノキオピーがメイン歌唱の曲が5曲、そのほかの曲もコーラスやさび前のフレーズで入ってます。さらに、MV動画段階では初音ミク主体の曲でも、アルバムアレンジではピノキオピーの声が随所に挟まれたりしているので、そこが好みを分ける部分だと思います。私も初めて聴いた時苦手でした。ただ、ライブでやるとしっくりくるんですよね。そういう意味で、ライブ用の音源だと意識して聴くようにしています。

色々言いましたが、まあ曲の切れ味が凄い。
『今日もいろんな音楽が、たくさん生まれて死んでいく』と強烈なフレーズから始まるオープニング曲「ニッポンの夜明け」。
2曲目の「動物のすべて」もまたすごい、勢いが。もちろんこの動物には人間が含まれている。ピノキオピーと初音ミクで一緒に歌っているけど、初音ミクは”動物じゃない”というミーニング、うわ。

サウンドはもう思いっきりエレクトロポップに吹っ切れ、アップチューンもバラードソングもバージョンアップしています。2nd full album「しぼう」と比べると一目瞭然ですね。
歌詞も、『達観』もしくは『諦観』のようなものを強く感じさせつつ、それだけで終わらない等身大の部分もあり、どこか「割り切って前に進む」ようなメッセージも感じます。ラストの「SAYONARA HUMAN」がそれを体現しています。

マイフェイバリットは、今挙げた曲以外だと群を抜いて
すきなことだけでいいです」ですね。先ほど書いたライブで新曲として披露された時からガツンと来た曲です。
サウンドはすごくキャッチ―で踊れるのに、歌詞は中々真に迫るテーマを歌う、まさにピノキオピーらしさが詰まった曲です。
「好きなことだけじゃやっていけない」ということを、ここまでセンセーショナルに、そしてコミカルに曲にしちゃうのはアイデアの勝利かなあ。

自主制作7th「増殖する今村」(2017/12/29)

イラストレーターのツインテール今村さんとのコラボレーションアルバムです。
ツインテール今村さんの作品は「初音ミク」のような何かがだいたいひどい目にあったり皮肉な目にあうシニカルなショート漫画…というイメージなんですが、説明していて違う気がしてきたのでご自身で確認してください。
一応彼の作風を理解していた方が曲のコンセプトが理解しやすいと思います。「増殖する今村」「ボカロはダサい」「Honjara-ke」はモロ彼の世界観に寄った曲ですね。

やっぱり「ボカロはダサい」というキラーチューン。解釈は聴く方それぞれなんで置いておくとして、「ダサい」こと否定したい歌ではなく、ボカロの良さって何?ということを暗に示した曲に思いました。

マイフェイバリットとして他には、海外受けが凄いという「アップルドットコム」、「死ぬのはいつも他人ばかり」も良い。「モチベーションが死んでる-Undead Remix-」も原曲からさらに踊れるアレンジ。

4th Full Album「零号」(2019/2/27)

3枚目の全国流通アルバム。
前作と今作あたりからグッとYouTubeでの再生数が増えました。
代表曲は、「ぼくらはみんな意味不明」「おばけのウケねらい」「内臓ありますか」あたり。

個人的には2度目のキャリアハイ的な作品だと思っています。
シンプルに再生数の伸びたキラーチューンが多いのもそうですが、
合成音声と人間ボーカルの融合」の試みがこのアルバムで完成したといっても過言ではありません。
前々作「HUMAN」より人間(=ピノキオピー)の声は控えめにはなりましたが、その分ライブではガッツリ前に出るのでバランスが取れています。特に、「ぼくらはみんな意味不明」はピノキオピーと初音ミクの掛け合いが絶妙なバランスで、しかもこの曲が伸びたことでこのスタイルが決定的になりました。
何よりライブの場数を積んで試行錯誤したのちのアルバムで、ライブ感が前面にありつつCD音源としての聴き心地も洗練されたアルバムです。傑作。

曲のテーマは、これまでの俯瞰的に社会や人を描くものから、より等身大の、人個人個人が抱いている思いや境遇にフォーカスしたものになっていると感じました。「内臓ありますか」「I.Q」「ぜろ」と、聴いたとき、あれ自分のこと?と思ってしまったくらい。人のしんどい部分を突く曲が本当にうまい人です。

そして特筆すべきはラストの「君が生きてなくてよかった」。強烈なタイトルですが、この曲は初音ミク発売10周年ソングとして書かれた曲で、ピノキオピー主観で初音ミクについて歌にしています。彼なりの「初音ミク」との向き合い方がよくわかる名曲です。

5th Full Album「ラヴ」(2021/8/11)

ベスト盤を挟み、自主レーベルから初のアルバム。
「愛」をテーマに作られたアルバムとなっています。
代表曲「ラヴィット」「アルティメットセンパイ」「ノンブレス・オブリージュ」など。M11とM12にはリミックスが収録されています。

え~前作のところで”キャリアハイ的な作品”と述べましたが、
今作、またしても”キャリアハイ”です
ミクロにもマクロにも(個人から概念・宇宙規模まで)「愛」についてが一環としてテーマですが、同時に「愛」を通して個人や社会、世界を投影しているともいえます。それがM10のタイトル曲「LOVE」で総括的に歌われるのです。
歌詞についてもっと触れると、前書きで書いたこれまでの「コミカルに社会を歌う」というより、もっと直接的に踏み込んでくる表現が増えました。特に「ノンブレス・オブリージュ」を聴いた時の衝撃は凄かったですね。ここまで感情的な歌詞を全面に出しているのは珍しいです。
音は、引き算の美学というべきか、前作まで以上によりソリッドになり、エレクトロポップやEDM、ハウスなどはもちろんヒップホップのトラックを想起させる曲もあります。音楽の幅としても、電子音楽という大きな括りの中で広がりを感じます。

とまあざっくり書きましたが、本格的に語るとなれば単独で記事を書きたいくらいです。ただ、「今」のピノキオピーが100%でていますし、もしラヴィットやノンブレスなどの話題曲に関心があれば特におすすめです。リミックスの「セカイはまだ始まってすらいない」「愛されなくても君がいる」も、ライブで盛り上がるところが想像できます。

このアルバムについてピノさんが一曲ずつ直々に解説されているので、
そちらを参照してみてください。このアルバムを持つ意味なども見えてくると思います。

その他のアルバム(ミニアルバム/アレンジアルバム/ライブ盤/ベスト盤 etc...)

ここまで「オリジナルアルバム」をレビューしてきましたが、他にもアルバムが出されているので簡単に紹介します。

Mini Album 『remodel』 (11/3/27)

現在は実質廃盤でサブスクにはないミニアルバム。既存曲のリアレンジ・マスタリングverが収録されています。一応原曲は全部動画になっているので疑似的にアルバム曲を網羅することはできます。私はアルバムを持っていないのでレビューは難しいですね。

Special Album『祭りだヘイカモン』(15/12/09)

ライブをやりだした頃に出した、実際にライブでやるバージョンのアレンジ集。実質的にライブ盤ともいえるでしょう。これもサブスクにはありません。私はアルバム持っていないのでまだ聴けてません。

Rearranged Album 『P+(ピープラス)』(19/8/12)

約10年前である初期の楽曲(2009~2011)を今のピノキオ風にアレンジしなおしたアルバム。ライブでやることを前提としたアレンジでしょうね。かなりエレクトロポップになってます。初期が好きな人にとっては好みは分かれるかも。

Live Blu-ray & Album『ピノキオピーツアー2019 五臓六腑』(20/2/28)

4th Full Album「零号」のリリースツアーの模様を収めたライブブルーレイとライブアルバム。私、この京都公演に参加していて、それはもうめちゃくちゃ盛り上がってましたね、ピノキオピーのライブスタイルのレベルが最高潮でした。驚いたのは、キャパ300人も満たないくらいの規模だったのに海外から来たお客さんも数人見られたことですね。アジア圏や欧米圏からの方でした。
ライブでは『2DJ+生ドラム』という構成で、ピノさんがDJをしながら歌う、というスタイルです。やっぱ生音が混じるのは気持ちいいですね。

Best Album『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』(21/3/3)

ピノキオピーの2009年~2020年のキャリア総決算ベストアルバム。
選曲も曲の並びも完璧です。ピノキオピーを知るならこれだ!という曲がこれでもかと詰まっているので、とりあえずピノキオピーを知りたいのならベストから入ってみてはいかがでしょう。
また、「愛されなくても君がいる」「10年後のボーカロイドのうた」「セカイはまだ始まってすらいない」「ゴージャスビッグ対談」はピノキオピーのアルバムに初収録です。Disc3からの豪華ボカロP陣によるリミックス集もすごい。さすがのメンツです。

おススメのアルバム

さ~て、ここまでたくさん出ていると何から手を付けたらええねん、となっちゃいますね。
まず、ピノキオピーの曲をあまりご存じない方は、ぜひ投稿されているMVの再生数上位から見てみてください。MV動画が充実しているのはVOCALOID界隈の特徴ですよね。動画のクオリティも非常に高い。ちなみにピノキオピーの場合、ボカロだけで100作以上も動画があります。

曲はいくつか知っていて、アルバムに手を出してみたいな~という方は
いわゆる「Full Album」の中から好きな曲があるアルバムを選んで聴いてみてください。素直にベストアルバムからでもいいでしょう。

ちなみに私のおススメはベストアルバムを聴いて、「零号」「Obscure Questions」に手を出してみるルート。この2作はそれぞれの時期の到達点といえるアルバムと思っているので、自信をもって推薦できます。
プロセカやラヴィットなど最近の曲で知ったかたは5thAlbum「ラヴ」から入ってみることをお勧めします。

さいごに

いや~ここまで読んでいただいた方がいるならお疲れ様です&ありがとうございます。ピノキオピーをあまりご存じない方が読むことを想定して書いたのですがいかがでしょう。こういう記事を書くのは初めてなんで結構悩みましたね。達成感はあるので個人的にはよしとしています。

いずれアルバムごとにそれぞれレビュー記事でも書こうかなと思ったり…(暇だったら)
次に出る5th Full Album「ラヴ」発売に合わせて、『アルバムランキング』もやるかもしれません。→やっぱやりません。なぜなら決められないから…

追記1:ピノキオピーさんからの反応(2021/6/16)

読んでくださったとは…(ビビった…)
ありがとうございます…

ほんと好き勝手書いている記事なので、ご容赦お願いします…
話のタネにでもなれば幸いです…

追記2:ライブを見た京都VOX Hallの現在

Twitterの反応を拝見させていただくと、京都でライブを見た人が他にもいらっしゃったようです
私が参加したのは2016年と2019年でしたが、どちらも京都VOX Hallで行われており、階段状の独特のフロアから見るステージは印象に残っています

そんな京都VOX Hall、入っているビルの閉鎖に伴いいったん閉店になってしまいました。(2020年4月をもって)

ただ、完全に閉店というわけではなく、コロナ禍が明けたら場所を改めて再始動!とのことなので、なにか支援出来ればいいなと思います。

追記3:参考になるリンク集

・ピノキオピーのオフィシャルサイト

・2021年に出したベストアルバム発売時の対談特集①。ピノキオピーのボカロ観がよく分かる

・これまでのピノキオピーにまつわるインタビューすべてを列挙しているブログ。過去のインタビューなど参照したい場合は大変ありがたいです

・けがに氏によるファンによるピノキオピー記事などのアーカイブ集。当noteも取り上げてもらっています


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