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トヨタだってちゃんとやってるじゃん

 トヨタ自動車の社長が代わり、新体制による方針説明会が開催された。佐藤社長、中嶋副社長、宮崎副社長の3人が登壇され、約40分に渡ってこれまでの成果やこれからの取り組みに関するプレゼンがあったのだけれど、その最中、さまざまな写真や図版などが披露され、個人的にもっとも食い入るように見たのは「電動車累計販売台数」だった。
 1997年から2022年まで、「右肩上がり」のお手本みたいなキレイな曲線を描いて2250万台の電動車を販売したそうだが、注目するべきはその右側に書き添えられた文言である。

「CO2排出削減効果はバッテリーEVに換算すると約750万台」

 新聞社を筆頭に日本の大手メディアはこれまで、「トヨタのEV戦略がテスラをはじめとする輸入車メーカーから大きく遅れをとっている」といった論調を繰り返してきた。そして案の定、今回の方針説明会については「2026年までにEVを10モデル、150万台を販売」という見出しがそこらじゅうに踊り、「トヨタもようやく重い腰を上げた」みたいな論調だらけとなった。
 そもそも、自動車業界がカーボンニュートラルを目指すにはいろんな方法があって、バッテリーEVはあくまでもそのひとつに過ぎない。ところがいつの間にか、「自動車のカーボンニュートラル=バッテリーEVの量産」みたいなことにすり替えられてしまい、だから「トヨタは出遅れた」となった。
 大手メディアが大好きなテスラのバッテリーEVの累計販売台数は約365万台強に過ぎず、トヨタのバッテリーEV換算の約750万台の半分にも満たないのである。テスラとトヨタ、この数値だけを見ればどちらがカーボンニュートラルに貢献してきたかは一目瞭然だ。
 もちろん、前述のように自動車業界におけるカーボンニュートラルを目指す方法は多岐に渡り、バッテリーEVの販売台数だけで社会貢献度を示すのは適切ではないけれど、その販売台数ばかりを執拗に取り上げてきたのは大手メディアである。
 EUの「2035年以降、エンジン車の新車販売禁止」も「法案の採択を目指す」ものだったのに、大手メディアはあたかも決定事項のように報道してきた。ところが、この法案が「条件付きでエンジン車の販売も容認」となりそうで、今度は「トヨタなどに追い風か」となった。この「条件付き」を提案したのはトヨタではなくドイツ政府であり、これを「追い風」と呼ぶならば、トヨタだけに吹いている風ではない。
 バッテリーEVもやるけれど、さまざまな国や地域のインフラや社会情勢に対応できるよう、ハイブリッドやプラグインハイブリッドや燃料電池や水素エンジンなど多様な選択肢を提供しようとしているトヨタの「マルチパスウェイ戦略」は極めて賢明かつ現実的で、ドイツの自動車メーカーも似たような戦略を採っている。いまはバッテリーEVだけが地球を救うみたいに選択肢を狭めるのではなく、いろんな可能性を探る時期にあるということを、大手メディアはきちんと正確に報道して欲しいと思う。
 何より私たちはいま、自動車の歴史上もっとも多くのパワートレインが選べる時期にたまたま居合わせているわけで、なんともありがたい限りでもある。

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