【アーカイブ】日本車の作り方
(「中等教育資料」2017年4月号より転載、加筆・修正あり)
渡辺慎太郎
月刊自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集長
自動車専門誌の制作を生業としていると、国内外のクルマを試乗する機会に数多く恵まれます。もうずいぶんと長きに渡ってたくさんのクルマを乗り比べ、印象を整理して原稿を書いていますが、最近になってあることをよく思うようになりました。それは日本の自動車メーカーが作る日本車と、外国の自動車メーカーが作る輸入車は、どうしてこんなにも違うのか、その理由についてです。
クルマにあまり詳しくない人でも、道行くクルマを眺めてみたら、メーカー名は分からなくても、日本車と輸入車の判別はなんとなくできるのではないでしょうか。日本車も輸入車も運転した経験のある人なら、両者の乗り味が明らかに異なることに気が付くのではないでしょうか。
例えばデザイン。輸入車はデザイン性を重視したものが多い傾向にあります。デザイン性を重視するということは、機能性を損なう恐れもあるわけで、後方の視界が悪いとか、乗り降りがしにくいとか、そういった弊害が見られるクルマもあります。日本車は機能性を重視したデザインが採用される傾向にあります。視界は良好だし両側スライドドアで乗り降りだって楽ちんです。
例えば乗り味。輸入車に乗ると運転が楽しいと感じることがよくあります。一方で、室内がうるさかったり、乗り心地が悪いこともしばしば。日本車で運転が楽しいと感じることは少ないですが、そこそこ静かでそこそこ乗り心地もよく、エアコンだってよく効きます。
こうした違いは、クルマの設計思想によるものだと考えます。輸入車は、後ろが見えにくくても抜群に格好いいデザインなら良し、快適性が若干損なわれても運転が楽しいなら良し、というようにメーカーごとに定めた優先順位で設計されています。日本車はおしなべて、視界がきちんと確保された上でのデザインであるべきとされ、運転が楽しいだけでなく乗り心地もよく快適性にも優れおまけに燃費もいいというような設計がされています。つまり、個性を大事にする輸入車に対して、どの性能も無難なレベルでまとめる日本車、そんな印象を強く抱くようになりました。
こうした日本車のクルマ作りの思想は、日本の学校教育にとてもよく似ていると思っています。絵を描くことが大好きで素晴らしい作品を仕上げる子がいても、「絵ばかり描いていないで、国語や算数もちゃんと勉強しましょう」と先生はきっと言うでしょう。ひとつの教科だけが飛び抜けてできる子より、どの教科も無難なレベルでまとめる子のほうが良しとされる雰囲気が、日本の学校にはあるような気がします。日本車がどれも同じような性能で似たような格好をしている直接的な原因が日本の学校教育だとは思わないけれど、間接的にはどこかで少しは影響しているのかもしれないと考えたりします。
高校時代、自分は数学がとにかく苦手で、テストではいつもクラスでビリでした。ある時、数学の先生が「次のテストは試しに数学だけ勉強してみろ。大丈夫、他の教科の先生にはオレが断っておくから。お前が本当に数学が苦手なのか、あるいは勉強方法が悪いのか、先生はそれを知りたいんだ」と言ってくれたことがありました。そこまで言うならと本当に数学だけ勉強したら、クラスで2位の成績を取った。すると先生が「やれば出来ることが分かったからもういい。お前は数字よりも文章を書くほうが得意みたいだからそっちをもっと頑張れ」と励ましてくれました。そして国語の先生は、文章を書くことの楽しさと難しさの両方を懇切丁寧に教えてくれました。漠然と文章を書く仕事に就きたいと思い始めたのも、その頃だったと記憶しています。
だからいま、こうして文書を書くことでどうにか生きていられるのは、彼らのおかげだととても感謝しているし、個性豊かな日本車(=日本人)が今後続々と登場してくることを願って止みません。
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