オンライン授業と著作権

その1~導入~

 新型コロナウイルス感染症の影響が拡大している。教育現場における影響も大きく、自治体や大学においては頭を悩ませています。

 この記事によれば、デジタル環境の問題、教育制度の問題と、解決するべき課題、障壁は山積みのようです。ゆとり世代と揶揄されながらも、支障もなく教育を受けることができたことを幸運に思います。
 教育に欠かすことのできない、教科書や参考書等の書籍の著作権の扱いも、頭を悩ませている原因の一つのようです。こういう緊急事態に法律家が貢献できることはそんなに多くありません(Twitterで、戦時中、東大法学部の主席でも戦地に駆り出されたという話を目にしました。)。教育現場の人たちの苦労を耳にする機会があったので、悩みのたねをひとつでも解決し、子供たちに教育を届けることに専念、注力できる、その一助になればと思います。

その2~ソースへの案内~

 「素性もよく分からん人が書いた記事なんか信用できるか」という方もいると思うので、早々に、ソースへのリンクを紹介します。

「授業目的公衆送信補償金制度に関する最新の状況」
→ 新型コロナウイルス感染症対策に伴うICTを活用したオンライン教育等の取り組みについて(国立情報学研究所)での資料。もはやこれに全部まとまってる。

一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会
→ 通称「SARTRAS(サートラス)」。補償金の徴収・分配や著作権及び著作隣接権の保護に関する事業等を実施し、文化の普及発展に寄与すること等を目的として設立された団体

著作物の教育利用に関する関係者フォーラム
→ メンバーは、サートラスを構成する権利者団体の関係者、教育機関関係団体の関係者のうち、教育現場における著作物利用の実態や著作権制度について知見をお持ちの方、そして有識者

改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)と「授業目的公衆送信補償金制度」の今後の運用について
 必読。オンラインによる遠隔授業等での著作物利用のガイドライン

教育の情報化の推進のための著作権法改正の概要
文化審議会著作権分科会報告書(平成29年4月・文化審議会著作権分科会)
著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)
→ 改正時の議論を知りたい方向けです。

大学などの遠隔授業等における「著作権の壁」をクリアするためには(STORIA法律事務所 柿沼先生)
→ 大いに参考にさせていただきました。

その3~結局どうなったのか~

 著作権法35条が平成30年に改正され、大分先の、令和3年5月24日までに施行されるとされていました。教育現場で対応を慎重に検討することが予定されていたと思います。
 しかし、休校の長期化で、オンライン授業の導入が急がれた結果、これが、急きょ令和2年4月28日に施行されることになりました。さらに、令和2年度に限り補償金を無償にするという扱いがなされることになりました。

その4~結局何をしていいのか~

 では、著作権法35条は何を定めているのでしょうか。どういう条件で、何をして良いのか、にポイントを絞って解説します(他人の著作物を利用する場合には許諾が必要、という大原則の説明は割愛します。)。

これが、著作権法35条の規定です。

(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、 その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、 その必要と認められる限度において、 公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3(略)

 ざっくりいうと、この規定に合致する場合には、許諾なく著作物を利用してOKです。
 合致するかどうか、判断のポイントとしては…

① 対象施設は「学校その他の教育機関」のみ
 → 塾や予備校はNG
② 対象主体は「教育を担任する者及び授業を受ける者」
  つまり、教員及び児童、生徒、学生
③ 利用の目的は「その授業の過程における利用に供することを目的」で、これに「必要と認められる限度」のみ
 → 授業はもちろん、部活もOK(オンライン部活…!)
 → オンライン職員会議はNG
 → 授業の参加者間での共有のみOK
 → 共有する資料も、授業で取り扱う最小限度に!
④ 対象となる行為は、複製、公衆送信、公衆伝達
 
→ 公衆送信をするには補償金の支払が必要(2項)。ただし、令和2年度に限って補償金は無償に。
⑤ 「著作権者の利益を不当に害しない」場合のみ
 → ガイドラインには、

・同一の教員等がある授業の中で回ごとに同じ著作物の異なる部分を利用することで、結果としてその授業での利用量が小部分ではなくなること
・授業を行う上で,教員等や履修者等が通常購入し,提供の契約をし又は貸与を受けて利用する教師用指導書や、参考書、資料集、授業で教材として使われる楽譜、合唱や吹奏楽などの部活動で使われる楽譜、また、一人一人が学習のために直接記入する問題集、ドリル、ワークブック、テストぺーパー(過去問題集を含む)等の資料に掲載されている著作物について、それらが掲載されている資料の購入等の代替となるような態様で複製や公衆送信すること
・製本して配布すること

などが、NG例としてあげられています。

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