トイレのフォルムは、いざなう

コラム「トイレのフォルムは、いざなう」

 用を足した後、男性は便座を上げたまま、女性は便座を下ろしたままトイレを出るといった、どちらが真の便器の姿(使い方)かという、論争というには地味な意識の対立のようなものが昔からあったように感じる。しかしこのコロナ禍によって、ウイルスの拡散を防ぐため便座のふたを閉じてから流してトイレを出ましょうという風潮が広まり、世間の便座問題にやっと平穏が訪れ始めたのではないだろうか、と思いたい。
 そもそも便器は本来ふたを閉じた状態が通常形態らしい。これはもう義務教育で教えていいことでは。小便が便器の外へはみ出してしまったり、縁や便座についてしまったら自分で拭き取ることをちゃんと世の子どもたちに大人が教えられたらいい。というのも小便が便器からはみ出しても拭き取りもせずトイレから平然と出てくる男性が昔から多いと感じるのである。そういう人に限り誰かがふたを閉じてトイレを出ると、「便座を下げるな。いちいち触って上げないといけなくなるだろ。 手に誰かの小便がついたら嫌なんだよ」と苦情を言ったりする。他人の小便が自分の手につくのは嫌なのに、自分の小便の掃除を他人にさせる不思議。私はもし自分のはみ出してしまった小便を次に入った誰かに見られて(あらまぁ!これは宮城さんのオシッコ☆)と思われたくない。女性だって縁についた誰かの小便に触れるリスクを負ってまで便座やふたに触れたくないだろうに。
 いっそのこと男性も座って用を足すようになれば解決することである。その気になれば立った姿勢で用を足すことのできる女性が座る一方、男性が必ず立った姿勢で用を足さなければならない理由なるものがあるのだろうか。「だから結局トイレは男性用と女性用に分けられればいいのだ」となるのだろうが、そこにやっとオールジェンダートイレの設置やトランスジェンダーの利用に関する問題などが見えてきた近年である。
 「多様性を尊重する社会をつくろうというのなら、自分のはみ出た小便を掃除したくないという人間の気持ちも尊重しろ」とズレた主張をする人もいそうな気もするが、人間社会は他者への思いやりが不可欠な場所である以上、他人への配慮や工夫を真剣に思案することは非常に大事であると思う。
(2022年9月15日沖縄タイムス「唐獅子」にて発表)

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