「目」に任されたお役目とその疑惑

コラム「「目」に任されたお役目とその疑惑」

 「目は口ほどにものを言う」とはよくいったもの。 丁重に話しかけてくれた女性の目が赤く充血していたりすると(ありがとう、僕が嫌いだとそんなにわかりやすく教えてくれて♪)とすがすがしい気分になる。
 H・R・ギーガーのモンスターデザインで知られる映画「エイリアン」であるが、怪物がいかに凶悪であるかを表現するため、とにかく邪悪な目つきのデザイン案を多数練ったがなかなか決まらず「いっそのこと目を無くしてしまおう」との決断に至ったという逸話がある。何を考えているか分からない方がかえって不気味で恐怖心をあおられる。まさに感情が最も表れる顔のパーツこそ目なのだ。「誰にもナメられてなるものか」という立場の役職の人間や、「自分がどこを見て何を考えているかバレるとまずい」という手品師がよくサングラスをかけている理由はそれではないか。
 それに話芸や歌の指導者が、客は演者の顔を見ているという観点のもと「顔を客席から見える位置より後ろに向けないよう」「目元がスポットライトで隠れるような髪形やファッションを控えなさい」との指導をしていることは多い。 「口の動きを大きく見せなさい」という指導もあるが、目で見せる感情表現には僅差でかなわないように思う。口角を上げてみせられても目を見ないことにはそれが笑顔なのかいまいちつかめないものだ。
 また40年以上前のドラマや映画に出演する俳優らの眉が今と比べとても太いのを見ると、「やはり昔の芸能人は目元というのを大事にしていて、現在の眉を剃ったり抜いたりする行動なんて当時は考えられないことだろうな」とつい思ってしまうのだが、調べてみると奈良時代より眉を抜く化粧法「引眉 ひきまゆ」があったというからなんとも奥深い。
 しかしなにも目を見さえすればその人の感情がまる分かりできたなんて単純なことはないもので、人は結局物事を自分の見たいよう見て、解釈したいように解釈するものである。世の中、多面的であるものの一面だけ見て評価を下したがる人間は多い。
 「俺はあいつの目つきが気にくわない」という言葉の正体。先輩にかわいがられる新人は、先輩の立場をおびやかさない程度の新人でしかないというのもよくあることである。
(2022年10月13日沖縄タイムス「唐獅子」にて発表)

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