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タイムカプセル[エッセイ]

タイムカプセル、何かの節目などにそういった企画が催されることは珍しくない。
40年以上前、私が小学校を卒業する時にもその企画があったし、タイムカプセルは作って埋められたはずだ。しかし、私はそれについてよく知らない。

私は小学校の卒業式のちょうど一週間前に水ぼうそうに罹ってしまった。学校では卒業式に向けていろいろなことが進んでいた。その中にタイムカプセルの話もあったのだ。

卒業式当日、医者の許可をもらって私は何とか出席することができた。
その日、久しぶりに登校すると先生に放送室へ行くように言われた。私たちの学年ではタイムカプセルとして将来の夢をカセットテープに録音して20年後の同窓会で聴くというものになったらしい。
放送室では私の前に同じように休んでいたらしい男子が先に録音していた。そして出てくるとラジカセの録音方法を教えてくれた。その後、一人で放送室に入り、名前と将来の夢を録音したことを覚えている。

卒業式を終え、教室での先生の話で保護者への説明があった。卒業生全員が将来の夢をカセットテープに録音した事、そしてそれを学校裏庭の二宮金次郎像の近くに埋める事、20年後の同窓会でそれを開く事。説明をして、先生はインスタントコーヒーの空き瓶に入れたカセットテープを見せた。
私が知ってるのはここまでだ。

卒業から10年も経たない頃、小学校の体育館が新しく建てられるという話を聞いた。新しい体育館の場所は二宮金次郎像のあった裏庭だった。タイムカプセルのことが頭をよぎったけれど、どうなったかは分からなかった。

今、小学校を卒業して40年以上が経過した。
卒業の20年後に同窓会が開催されることはなかったし、タイムカプセルに関する話も何一つ聞かない。
あの時語った夢とは全く違う人生を歩んでいる私。今更それを聞いたところでどうなるものでもない。学校という狭い世界しか知らなかった私がその夢を語った時、どんな気持ちでいたのかももうどうでもいいことだ。
でもタイムカプセルというものに心踊らせて、未来の自分がこれを聞いて何を思うのだろうとワクワクしたのは事実。

おそらくもう開かれることのないタイムカプセルが体育館の下に埋もれていないことを願っている。

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