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夏 第204回 『魅惑の魂』第2巻第2部第47回

 こうして、二人は夢を見ていた。彼女は外洋の中にいた。長い航海には慣れていた。けれども彼は、出発点に立っていた。そのすべてが彼には新しい発見だった。その目新しさが、彼の観察眼を鋭くさせていた。さらに遠くまで見えることもよくあった。彼には驚かされる真摯な瞬間があった! しかし、長続きはしなかった。それは獣の動きにも似ている。突然、この鋭い視線が怯えだす。もうだれも観えなかった!… だが、観えなくとも仲間がいることは解っていた。彼の仲間の母親を見つめる数分、新しく沸いた注意力で、彼の愛という新しい若い力が、激しい沈黙の中に彼女と一緒に閉じ込められている、その存在のすべてに、彼女の魂の香気が染み込んでいた。理解できなくとも、彼には得るものはあった。そして、一瞬の輝きが彼は心の秘密に触れるのだった。

つづく

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