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夏 第219回 『魅惑の魂』第2巻第2部第62回

 オデットは、自分のためかそれとも周りのためか、過剰な情熱を振り撒いた。彼女は芝居じみた口調や身振りで、振り撒いていた。それは大きな声ばかりで語られるだけではなく、自分を慰めるように独白のように語られることもあった。それは周りに与える衝撃を和らげるものだった。衝撃の行先の大半は、アネットかマルクだった。大半が両方が混在していたが、マルクだけに向けられたものもあった。なぜなら、マルクは彼女をからかい、彼女を軽蔑していたからだ。彼女はそれがよく解っていてマルクを憎みもしていた。彼女は屈辱と嫉妬で苦しんだ結果、仕返しがしたくなっていた。どんな風にするのだろいうか? どんな風に苦しめようというか? いちばん酷いことを! それをなにを用いてやるつもりなのだろうか?… ああ! 彼女は子供の爪しか持っていない! 悲しい!… (今のところは)何もできないということ… でも、それは彼女には、とても辛かった。そして、いつものように笑いたいときや、泣きたいときに、そうできなことも辛いことだた。こうした制約は、今の彼女にとっては、あまりも不自然だった。オデットは落胆のなかに陥っていた。再び子どもらしい快活さが戻ってきて、体を動かす必要が生じてくるまでは…
 アネットは、これらの小さな絶望を眼にしていた。そして考えていた。そこに推測も加えて、―少し空想もしただろうが― 哀れみを持って、自分のかっての絶望を重ねるように思い出していた。自分もまた、だれのために、何のために、狂おしく愛し求め、貪ってきたのだろうか? それが、今に対してどんな意味を持っていたのだろうか? 自然の適えられる限られた対象、それと比べると何とも不均衡にしか思えない! すべてが無駄な浪費だったのか! この愛の力を、自然は平等には、与えてはくれはしない! ある者には多すぎて、ある者には不足している。アネットは、多くを持っている中に自分とオデットを入れていた。不足しているほうには自分の息子を入れていた。そのなかでは、彼がまだいちばん幸せだった。だが可哀そうに思えるのだった!…

つづく

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