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ボリュームを一つ上げる 〜星野 源〜

 最近ニュースのコラムを見て知ったけど、知らない間に世の中ではメンズメイクが流行っているそうだ。

マスクが原因で肌が荒れてしまってZoom会議の時の第一印象が悪くなることから、それをカバーするための男性用BBクリームが去年たくさん出回ったのが流行のきっかけらしい。

実は過去にメンズメイクという言葉ができたばかりの時に、やってみたいと思ってyoutubeやyahoo知恵袋を使って素人調べで化粧道具をいくつか購入して実践してみたことがある。昔から肌が弱くてすぐに肌荒れを起こしてしまう僕のフツメンフェイスを少しでも綺麗にしたかったのだ。

動画と鏡とを交互に睨めっこしながら慣れない手つきでいざメイクを始める、男なのにメイクをしているという背徳感と初めてやるワクワク感が入り混じる。無我夢中で自分の顔をぬりぬりした。



ーーこ、、これが、、、、、僕、、、??



驚愕してしまった。僕は一生懸命化け物を作り上げていた。

恐ろしいくらいにセンスが無いのだとすぐに分かって、化粧道具は洗面所の棚の奥に封印することになった。(後日もうすぐで付き合えそうだった女の子に見つかってしまい違う解釈をされてフラれた。)



 それにしても思うけど、自分の「すぐやる精神」には時々自分でも驚く。

どれだけとっつきにくいことだとしても、やりたいと思ったらすぐに行動に移す。あの日もメイクの知識なんて全く無いのに気づいたらAmazonで化粧道具を買い物かごに入れていた。

というのも理由があって、昔から「つまらない生活を面白がる」という言葉を大事にしているからだ。

これは星野源さん著書の『そして生活は続く』というエッセイ本のテーマになっている言葉で、どんなことでもまず面白がってやってみる、やってみた体験談に価値があるという。


近頃はインターネットや音声AIで調べると生活を上手にこなすための答えがすぐに見つかり、みんながそれにしたがって行動する習慣が当たり前になったような気がする。けれど、僕はそれがとてもつまらないことに思えて仕方がない。

「ネットで全部やり方載ってるから、便利だよ。」

確かに便利だ、そこは否定しないけど。その言葉は渇いて聞こえて仕方がなかった。それよりも僕はどんなアイデアで生活を面白くしたのかというその人だけの個性が溢れた体験談に価値を感じる。

そういえば、僕がポップカルチャーに没頭する人間に興味を持つ傾向があるのは、多感な人が多いからかもしれない。生活を面白くする方法を知っている人達の話は聞いてて面白いと脳みそが無意識に判断しているんだと思う。

そして、星野源さんほど仕事も生活も面白がっている人を僕は知らない。

音楽、俳優、執筆。どれも自分の個性を詰め込んで唯一無二のポジションを確立し続けてる。音楽でセンスを、俳優でカリスマ性を存分に見せつけておき、執筆では反対に自分の生活におきた体験談を元にお腹が痛くなるくらい笑えるエッセイを書く。そんな多才さに少し嫉妬すらするくらい。

我らのガッキーと結婚した憎たらしくて仕方がない男のエッセイ本を夢中で読んでしまうのは、例外なく僕が星野さんのアイデアに魅せられてしまっているからなんだろうなぁ。







話は戻るけど、男性用コスメが流行ってたくさん流通してるということは男性でもわかりやすくて使いやすい物が増えてきてるのではないだろうか?

それならば、今度こそ僕はメンズメイクを面白がることができるかもしれない。

早速メンズコスメを取り扱ってる店をネットで調べて目ぼしい店が4つ見つかったので、行ってみることにした。何が1番売れてるのかは調べずに、店の人のアドバイスを聞いて自分の肌質にしっかり合うものを選んでもらう作戦にした。

インターネットがなくたって生活を充実させられることを証明したいからあえてこういう方法にした。周りくどい?いやいや、そのくどさの中に面白さがあるんですよ。

もちろんコロナ対策をしっかりして、平日の人が少ない時間を狙ってビクビクしながら大型商業施設に向かう。僕みたいな内気な輩はウレタン素材マスクを2重にして街に出ないと不安で何も手に付かないのだ。多少の呼吸困難は甘んじて受け入れよう。


いざ着いて店を見てみると唖然とした。どの店も照明が煌々と輝いていて、そこかしこに配置されたミラーがその光を反射して店全体がこの世のものとは思えないくらい光り輝いている。とんでもない煌びやか空間が僕を待ち受けていたのだ。

その時に思い出したのは、「女性が1人でラーメン屋に入りづらい」という話をしてる友達のことだった。今なら気持ちがわかる、こういうことだったのか。全然入ればいいのになァって言ってたあの時の自分、世の中のラーメン女子に全力で謝りなさい。

結局、4つも調べたのに1つも入ることができなかった。


「男性用コスメ取扱中!スタッフにお気軽にお声掛けください!」

どの店のホームページにも書いてあったあの文章は一体なんだったのだ。とても気軽にお声かけできるような雰囲気じゃなかったぞ。もしかして、これもインターネット社会の影響?インターネットで集客するためのテンプレ文章で、書いておけばお客様が集まりやすいとか、そういうことなのか?(実際、僕が店に足を運んだのでそういうことなんでしょう。)


結局インターネットが強いんだということと自分の度胸の無さに虚しくなってきた時に、一つのアイデアが浮かんだ。

「LOFTなら、絶対男性用コスメのコーナーがある。」

生活雑貨をメインに取り扱うLOFTなら、あの真っ黄色空間ならば、きっとなんの後ろめたさも無くコスメのコーナーを見ることができる。そう思った僕は早速店に走った。

店に着くや否やそそくさとコスメのコーナーに行く。すると、やっぱり。案の定メンズコスメのコーナーが確立されてる。
よし!心の中でガッツポーズ、それにしてもなんて居心地の良い黄色空間だろうか。一生いたくなる。

早速スタッフを見つけてアドバイスを聞いてコスメを選ぶことにした、店員さんはとても親切で、どの色が似合うのか、自分の肌質に合う道具はどれなのかを丁寧に教えてくれてレジが終わる最後まで寄り添ってくれた。

僕はLOFTが大好きだ、まさしくアイデアの宝庫。無いものがないので行けば必ずその時の問題が解決する。インターネットをそのまま店舗化したような空間なのに、インターネットと違ってすぐに答えが見つかるわけじゃないのが面白い。さらに大型雑貨店特有のよそよそしさがあまり見えないのもLOFTのいいところだと思う。

ネットでなんでも解決できる世の中だけど、こういう場所に来ると「そうそう、やっぱり直が1番なんだよ」と心の中で何度も呟いてしまう。直に交流することの楽しさ、店員さんの知識や体験談を踏まえた商品プレゼン。これらは絶対インターネットやAIには差し出せない楽しさだ。

他のことにも例外なく言えることだと思う。いくらネット注文が便利な世の中だからって、いくらウーバーイーツが便利な世の中だからって、いくら配信ライブが便利な世の中だからって。

やっぱり直の楽しさには勝てないんだよなぁ。


それをまた確認できてよかった。ありがとうLOFT。





ーーー




早速次の日の朝、モーニングルーティンをした後にメンズメイクをやってみることにした。その日は会社の上司と昼からミーティングがある日だったので、これは絶好の機会だ。

早速選んでもらった男性用BBクリームを顔に塗ってみると、あの日とは確実に違う手応えを感じる。確かに、これは使いやすい!

他に買った物にも同様の感覚があった。すごい、楽しい。これならば毎日早起きしてやりたいくらいだ。

肌への馴染み方、男性特有の髭の剃った跡、女性との肌質の違い。それら全部を顧慮して作っていることが素人目線でも感じ取れるくらいに最近のメンズコスメはすごいんだということがわかった。これならばもう失敗することはないだろう。

教えてもらった通りに顔をぬりぬりとしていく、あの日初めてメンズメイクをした時と同じような感覚になった、男なのにメイクをしてるという背徳感と、初めてやるワクワク感が入り混じる。



ーーこ、、これが、、、、僕、、、??


驚愕した。鏡の前にはあの日と同じ姿の化け物が立っていた。

いや、あの日よりも心なしか化け物感が強くなっていないか?なんだか、白い、全体的に肌が白い。首と顔で色が違う。

どうしてこうなったんだろうと思って確認してみると、BBクリームの色を間違えて購入していることがわかった。僕の肌色よりもワントーン明るい色を間違えてレジに持ってきてしまったらしい。


結局直す時間も無くそのまんまの状態で上司に会うことになった。上司は大爆笑、社長にも「可愛くなったね」と冷やかされる始末。

結果的にメンズメイクは失敗で終わってしまった。


けれど、この体験談は今後も会社の人たちを少しクスッとさせることができるエピソードトークになるんじゃないかと思った。世知辛い世の中だからこそ笑いは大切だと思うし、いつか後輩ができた時に「僕はこんな失敗をしたことがあるよ、だから大丈夫!」と元気付けられるエピソードにもなる。

改めて体験談の強さを再確認できたところで今回のnoteを〆ようと思う。

これからも僕は体験談をたくさん増やしながら生きていきたい。きっとそれらは一生落ちない化粧になって僕という人間を彩ってくれるから。



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