乱世棄民政策

NHKスペシャル「中流危機を超えて」は、実に腹立たしい内容だった。番組に登場した駒村とかいう慶応大教授は、竹中平蔵氏と寸分違わぬ主張で、ここ二十年の日本の有様から何も学んでいないようだ。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/V93X848VQ1/

これからの成長分野に人を配置し、その人たちには手厚く報い、その変化についていけない人間は振り落とされ、国の用意するセーフティネットに。この主張は、竹中氏がここ二十年、ずっと主張し続け、日本の政治家や多くの企業が真に受け、現在の体たらくをもたらした原因だ。それを駒村教授は完全コピペ。

竹中氏が長らく主張し、駒村教授がコピペした「改革」は、株主資本主義には実に都合の良い改革。多くの労働者を社会不適合者として低賃金化、あるいは解雇し、浮いた経費は株主に還元させる。有能とされた人間のみ手厚く報いることで、「自分たちは実力があるから」と勘違いさせ、労働者を分断。

今回、駒村教授は、「適合できない人間は企業が抱えるのではなく、国がセーフティネットを」と述べている。これは、竹中平蔵氏が最近主張しているベーシックインカム論と符合する。こうすれば、企業は社会適合者のみを雇って、経営は身軽になるというわけだ。しかしこの「美しい」論理には穴がある。

竹中氏は、あわせて「これからの成長分野を伸ばすために」と、法人税の減免を求めるのが常。これだけそっくり竹中氏の主張をコピペしている駒村教授も、同様の主張だろう。すると、成長分野で企業が業績を上げたとしても、国に収める税は大して増えない。

税収は増えないのに、竹中氏や駒村氏が言うとおりの改革を進めれば、企業は労働者を大量に解雇し、身軽になろうとする。すると、大量の失業社会を国は支えなければならなくなり、しかし税収はない、というジレンマに追い込まれる。税収がない以上、「セーフティネット」は極めて脆弱になる。

すると、不満は国に向けられる。企業の経営者、有能として雇用された有能者、彼らから還元を受けた株主は、失業者からの憎しみを避け、国に憎悪を向けさせるのに成功し、利益は自分たちで独占(寡占)することができる。そうした社会の実現を目指しているのが、竹中氏のコピペたる駒村教授の主張。

経済という言葉は「経世済民」から来ている。「世を經(おさ)め、民を濟(すく)ふ」、つまり、社会を安定させ、民を救うことにこそ経済の意義がある。しかし竹中・駒村路線は、経世済民から外れている。一部の人間にだけ有利にし、多くの国民を蹴落とし、国を不満で充満した社会にしようとしている。

竹中・駒村路線は「経世済民(経済)」どころか、「世を乱し民を棄(す)てる(乱世棄民)」と言えるだろう。経済の本来の目的である、世を治め、民を救うどころか、世を乱し、民を棄てる路線。こんな学説に何の価値があろう?

この路線を支援している可能性のある勢力が一つ思い当たる。岸田首相はイギリスの金融街、シティで「日本はこれから資産所得倍増計画を実施する。だから日本(の株)に投資してくれ」と演説した。これは、英米の投資家に、日本は株主資本主義を続けるぞ、という宣言と言える。

急速に元気を取り戻した竹中氏の動き、NHKの特番に竹中氏のコピペたる駒村教授に全く同じ主張をさせた事実、岸田首相のシティでの演説を組み合わせて「補助線」を引くと、英米の投資家から「日本売りするぞ」と脅され、竹中・駒村路線を踏襲するよう、岸田首相を脅した、と理解すると分かりやすい。

つまり、日本企業が大量の労働者を失業者として吐き出し、一時的に経費を大幅削減し、それで浮いた利益は大幅に株主に還元させ、そしてその株主の少なからずに英米の投資家が含まれていると考えると、岸田首相は英米の投資家に日本企業を売り渡したのだ、と考えるのが理解しやすくなる。

日本の多くの労働者を失業者に変え、彼らが受け取るべき報酬はすべて株主と、わずかな経営陣と、労働者を分断するために一部「有能者」とされたごく一部の人間と、その三者だけで利益を独占する社会を実現する。これが竹中・駒村路線であり、英米投資家の狙いではないか。

岸田首相は、この狙いの恐ろしさに気がついているのか?たしかにこの路線は、小泉首相から始まり、菅首相もこれを引き継いだものであり、自分もそれを引き継いだたけだ、というかもしれない(※意外なことに、安倍元首相はこの路線から外れている。ただし幹部であった菅氏に路線継続させていたが)。しかし、選挙前に「新しい資本主義」をうたってたクセに。

「新しい資本主義」とは、日本の企業とカネを英米投資家に売り渡すことであると宗旨変えをしたことは、だまし討ちであり、小泉・菅氏よりさらに罪が重いと言える。しかもNHK特番に駒村氏なんかに路線を表明させ、時代の流れで国民に仕方ないことなのだ、と諦めさせるのはいかがなものか。

岸田首相は、選挙前に主張していた「新しい資本主義」、つまり「経世済民」に回帰すべきだ。英米投資家と一緒に一儲けしようという株主資本主義者たちに日本を売り渡すべきではない。彼らの利益のために論を展開する竹中・駒村氏に騙されてはならない。その方向は「乱世棄民」なのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?