石油は労働力と食料をもたらした。その後は?

石炭や石油、天然ガスといった化石燃料との出会いは、人類にとって2つの意味で強烈な意味を持ったように思う。一つは、代わりに働いてくれる労働力。もう一つは、食料。この2つが産業革命を起こし、人口爆発を可能にした。

産業革命が起きるまで、労働力といえば人力か、せいぜいウシやウマなどの家畜の力を借りるのがせいぜいだった。しかし産業革命で、石炭を燃やして湯を沸かすと力を引き出せる蒸気機関が発明されて劇的に変わった。人間の代わりに石炭が働いてくれるようになった。

石炭が働いてくれるようになり、やがて石油をエンジンの中で燃やして力を得る方法(内燃機関)が発明されると、石油にも働いてもらえるようになった。しかしこうした産業革命が起きても人口爆発には至っていない。単に人間の代わりにパワーを出してくれるようになっただけで、食料は増えなかったから。

1900年代に入り、ついに「化石燃料を食料に変える」技術が生まれる。まず、石炭のエネルギーを利用して石灰窒素という肥料を生み出すことに成功。そしてついに、化石燃料のエネルギーで肥料のアンモニアを無尽蔵に製造できるようになった。肥料さえあれば狭い面積でも食料を大量生産できる。

第二次世界大戦が終わった後、無尽蔵に得られるようになった肥料のおかげで、同じ面積から10倍の穀物が得られるようになった。それ以前は食料輸入が必須だったのに、ヨーロッパはやがて余分の食料を輸出するまでに生産性を上げるようになった。世界中に安い穀物があふれ、人口爆発が始まった。

人間の代わりに働いてくれる化石燃料。人間に食料をもたらした化石燃料。化石燃料は「労働力」と「食料」をもたらした。人類が昔と違い、重労働しなくても豊かな生活が送れるのは、化石燃料のおかげにほかならない。
問題は、化石燃料の未来に陰が差し始めていること。

石油がどうも採れづらくなっている。かつて石油は噴水のように吹き出していた。その時代は、1の手間暇(エネルギー)で200倍のエネルギーが得られていたという。しかしシェールオイルだと10倍を切る。投資をしても、経費諸々を考えると、収益ギリギリの採算性が悪いエネルギーになりつつある。

石油をガソリンに加工したり、世界各地に運ぶときに必要なエネルギーも考えると、石油を掘るときに必要なエネルギーの3倍は石油が採れてくれないと、エネルギー的に赤字になるらしい。たぶんもっと手前の数字で、投資対象として魅力を失うだろう。石油採掘にはお金がかかるのに、投資が集まらない。

現実にそれは起きつつある。投資が大きい割に石油があまり採れなくなってきたので投資効率が悪くなってきている上に、地球温暖化のもんだいも出てきた。化石燃料は燃やすと二酸化炭素が増え、地球を必要以上に熱くしてしまう。人類の住めない星に変わるかも。その対策が必要になってきた。

石油を掘るとき、二酸化炭素を排出してしまうのを「コスト」として負担しなければならないかも、という情勢になってきた。このため、投資家はますます石油採掘に投資することに二の足を踏むようになった。アメリカのシェールオイルは急速に下火になってきているらしい。

石油などの資源を語る際、あと何年掘り出せるかという資源量がよく取り沙汰される。けれど、石油の様子を見ていると、投資に見合わないと思われたら掘られなくなるということが見えてくる。「まだ量はあるから大丈夫」ではない。

化石燃料の中でも石油は特別。石油ほど優秀な燃料は今のところ他にない。自動車やトラックなどをはじめとする輸送機械は、ほぼすべて石油で動いている。石油は軽い上にエネルギーをたんまり貯めているので、少量積むだけで長距離移動が可能。しかもパワフル。重い荷物も何のその。

トラクターのような農業機械も石油で動く。これを石油以外のエネルギーに置き換えることは非常に難しい。
乗用車くらいに軽ければ電気自動車は可能。電気なら太陽光や風力で発電できる。しかし大型トラックや大型トラクターを電化するのはまだ非現実的なのだという。大きな原因は、バッテリー。

バッテリーは、リチウム電池が登場してから飛躍的に改善されたけど、まだ大してエネルギーを貯められない。デカくて重い割に貯められるエネルギーはちょびっと。現在、さらに大量のエネルギーを貯められる(エネルギー密度の高い)バッテリーの開発が進められているけど、石油には遠く及ばない。

電気で作った水素が石油の代わりとして期待されているけれど、水素ガスは金属を通過する上に脆くする(水素脆化)問題もあり、水素タンクは重くてかさばる。コンパクトにするため液化しようとすると超低温にする必要があり、エネルギーでかなり損をする。

天然ガスは石油と比べると埋蔵量もまだ余裕があるけれど、水素に似て、コンパクトに貯蔵するのが難しい(超高圧か超低温にする必要)。石油の代わりに自動車に積み込むことが困難。
バイオ燃料は、そもそも製造時に必要なエネルギー以上のエネルギーを得ることが難しい。赤字の場合が多い。

今のところ、大量の大型トラックや大型トラクターを動かすためのバッテリーや水素タンク、天然ガスタンクは開発できていない。バイオ燃料はそもそもエネルギー的に赤字になることがほとんど(ブラジルのサトウキビ由来のバイオエタノールだけ例外、アメリカのトウモロコシ由来は赤字)。

石油が利用しづらくなると、農業機械が動かせなくなるかも。たとえ農業に優先的に石油を回してもらえるとしても、大型トラックが動かせなければ都市へ食料を運ぶことが難しくなる。現代の文明をそのまま維持することは困難になるかもしれない。

エネルギー問題は食料安全保障に直結する。特に石油の採掘が難しくなってきたり、高騰したりすると、その影響は大きい。石油は非常に優秀なエネルギー。そして人類はまだ石油の代わりになるエネルギーを開発できていない。人類は「石油の使い方が巧くなっただけ」なのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?