セレブ層製造機能としてのアメリカの大学と今後

アメリカの大学の学費がバカ高くなったのはいつからなのだろう?
私が学生だった90年代前半、アメリカに留学したことのある同級生がこんなこと言っていた。「親がかりで大学に行ってるのが恥ずかしかった」。

当時のアメリカの大学生は、アルバイトして学費を稼ぎ、親に負担をかけずに大学に通うのが当たり前だったという。その学生は、日本の大学も留学でもみんな親に学費を出してもらっていて、自分は甘えているなあ、と恥ずかしくなったらしい。
他方、このエピソードは次のことを示唆する。

アルバイトをすれば十分学費を払えるくらい、当時のアメリカの大学は、学費が安かったということ。ところがどうであろう。2000年代に入ると、ハーバード大学もスタンフォード大学も、200万を超えるような高額な学費が必要。今のアメリカの学生は、とてもアルバイトだけでは学費をまかなえない。

だから貸与型の奨学金を借りて大学に進むのだけど、卒業時には多額の借金を背負うことに。これが大きな負担となり、アメリカの若者は強い不満を持っている。トランプ大統領のむこうを張る勢いだったサンダース氏が人気だったのは、大学の高額な学費を問題視する公約を掲げていたから。

アメリカ屈指の名門大学、スタンフォード大学は、建学当時、学費は無料だったという。戦後には有料化したようだが、私が学生だった時(90年代)も、アメリカの大学学費は安いと新聞などで読んでいた。なのに、2000年代になって、なんでこんなに高額になったのだろう?

ピケティ氏「21世紀の資本」では、アメリカの大学の高額すぎる学費が問題視されている。ピケティ氏は、名門大学が金持ち優遇してるのではないかと疑っている。学費だけでなく多額の寄付金もアテにしてる仕組みだからだ。ピケティ氏は、次のような仕組みではないかと疑っている。

アメリカの名門大学には、世界中の留学生が憧れて入学したがる。当然よりどりみどりなので、超優秀な人間を特待生として無料で入学させる。すると、この飛び抜けた人材が卒業後もシリコンバレーなどで大活躍し、同級生たちに箔をつけてくれる。そして特待生以外の同級生は。

アメリカだけでなく、世界中のセレブの子どもが、高額な学費と寄付金を支払って入学する。果たして十分な学力があるかどうかは別として、彼らの同級生には、世界でも飛び抜けて優秀な人間がいる。彼らの同級生ということで、友人ということで、いろんな便益が得られる。

超優秀な特待生にもメリットがある。アメリカと世界中のセレブと同級生としてお近づきになることで、様々な形で資金提供を受けやすい。こうして、超優秀な人間と金持ちの相互依存、共生関係が構築できる。超優秀な人間は経営者として高額の報酬を得、金持ちは出資者として高額の利益を得る。

アメリカの有名大学は、高額の学費と寄付金を要求することで、事実上金持ちにしか通えない場所に変え、一部特待生として学費を無料とすることで飛び抜けた超優秀な人間を引き入れ、金持ちセレブと超優秀人間のタッグを組ませる仕組みとして働いている、のではないか、というのが、ピケティ氏の仮説。

アメリカの労働者階級では、とても子どもを大学に行かせてやれない。高額な学費は、金持ちセレブと超優秀な移民達による金持ち層と、大学に行きたくてもいけない貧困層に分断する作用をもたらした。そして、超優秀な特待生のおかげで、あたかも大学卒は能力が高いかのようなカモフラージュが可能。

能力主義の皮をかぶった、金持ちと貧乏人との分断をはかる仕組みとして、アメリカの有名大学は働いた可能性がある。そしてそのように機能した最大の原因が、高額な学費である可能性が高い。

さて、名門大学のセレブ層製造機能は、トランプ大統領の登場で破綻の危機。トランプ大統領は、中国をはじめとする外国人がアメリカに留学しにくい仕組みを作った。これでは、アメリカの名門大学に超優秀な人間が入ってこれない。金持ちのボンボンばかりになる恐れがある。

金持ちのボンボンは、超優秀な留学生が同級生になってるから、自分の低学力をカモフラージュできていたが、それが今後は難しくなる恐れがある。金があるだけの無能ばかり輩出する大学になりかねない。

これを回避するには、国内の優秀な人間を特待生にするほかないが、分母が小さくなるから、人物は小粒になるだろう。すでに中国人留学生は、アメリカが居づらい世界に変わったことで、留学への渇望が弱まっている様子。有名大学が超優秀な経営者を輩出する仕組みも変化が訪れるだろう。

アメリカは超優秀な人材を世界中からかき集める仕組みにヒビを入れてしまった。アメリカは今後、技術開発の勢いを衰えさせる恐れがある。他方、優秀であれば優遇する中国国内の大学が相対的に地位を高め、技術力をアップさせる可能性がある。

世界の仕組みが変わりつつある。アメリカは戦後まもなくの、学費は安く、外国の優秀な学生には多額の奨学金を与え、世界中から人材をあつめると同時に、金持ちでなくても学ぶ意欲のある若者は大学に通える、昔のような仕組みを再構築できるだろうか?

日本は第一次、第二次安倍政権の間に、国公立大学の学費をいずれ90万以上に上げようとしたりしていた。頓挫したが、その政策は、恐らくアメリカのセレブ層製造機能をまねようとしていたのだろう。安倍政権の政治思想がよく見える象徴的な政策。

大学の学費をどんな金額にするかは、世界と国内の人材をどう吸収するか、という国家戦略に通じている。アメリカはどうするつもりか、日本はどうすればよいか。よく考える必要がある。
ちなみに、私は学費を安くする方向が望ましいと考えている。


追伸

https://gigazine.net/news/20200907-america-college-tuition-acceleration/

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