軽い依存先のつくりかた

自分がつらい、誰か助けてほしい、という気持ちのとき、次のようなニュアンスの言葉に転じることがあります。「自分はつらい、善人なら自分に手を差し伸べるべきだ、それができないやつは偽善者でクズだ」という、呪いをこめた言葉になりがちです。このため、「重い」と人に感じさせ、人が離れます。

溺れている人に似ています。溺れている人を助けに行くと、息をしようとして助けに来た人を沈めて浮かび上がろうとする。この結果、助けに行った人が溺れ死にすることがあります。ある程度経験を積んだ人は、下手に助けに行くと自分が溺れ死ぬことを知ってるので、「重い」人を助けづらくなります。

だから、溺れて苦しい、その苦しさを詳しく描写することに、私はあまり意味を感じません。なんの助けにもならないからです。肝心なのは助かることと、助けるためにたくさんの力を借りて、負担を分散すること。それらを難しくしてるものをナタ彫りし、容易にする手立てを考えることのように思います。

肝心なのは、楽しく依存できる先をたくさん作ること。一個だけだと全体重ですがりついてしまうので、すがりつかれた人も「重い!」となって溺れるか、逃げてしまう。たくさんの依存先を作ることで心が悲鳴を上げずに済むネットワークを作ることだと思います。

全存在を受けとめてくれる、幼児にとっての親のような存在は、もはやこの世におりません。実の親でさえ、年老いてもうムリ。「おはよう」「今日もいい天気だね」そんな軽いやりとりをする依存先をたくさん設けることで自分を支えることが、大人になると大切になります。

救世主(正確には自分を助けてほしいのだから「救自主」)を求めるのではなく、自分との関係を楽しんでくれる人をたくさん見つけること。そのためには、自分がいろんな人との関係を楽しむこと。「あなたと接すると楽しい」は、相手に伝わります。

たくさんの軽い依存先を作るためにお役に立つかもしれないコツを、二つほどご紹介いたします。「驚く」ことと、「雑談」です。
私のYouMeさんが赤ちゃんを連れて初めての公園デビュー。私は心配していました。見ず知らずの知らない人ばかりの土地で、孤独に子育てしなければならないのではないか、と。

ところがYouMeさんはすんなり公園の他のおかあさんたちと仲良くなり、談笑していました。私は目を丸くしました。どうやらそれは偶然ではない証拠に、大阪の私の実家の近くの公園に、もちろん初めて行ったのですけれど、YouMeさんはすぐに他のお母さんと打ち解けて話していました。

いったいどんな魔法を使っているのか?YouMeさんを観察してみました。YouMeさんは公園で走り回る子どもを見ると、「わあ!あのお兄ちゃん、足が速いねえ!びゅーん!」と、赤ちゃんに語り掛けました。雲梯をしている子を見ると「上手だねえ!ぴょんぴょん」と、やはり赤ちゃんに実況中継。

自分に注目してくれている!自分のパフォーマンスに驚いてくれている!それに気づいた公園の子どもたちは、「ぼく、こんなこともできるよ」「わたしねえ、こんなこともできるの」とアピール開始。YouMeさんは赤ちゃんと一緒に驚き、面白がりました。そのうち子どもたちは。

「その赤ちゃん、おばちゃんの子ども?」と聞いてきて。YouMeさんは「そうなの。一緒に遊んでくれる?」と頼むと、子どもたちは「いいよ!」と言って、一緒に遊んでくれました。
うちの子が、見知らぬ子どもの世話をするなんて珍しい、とお母さんが近づいてきて、YouMeさんに話しかけて。

YouMeさんは「うちの子と遊んでくれて、やさしいお兄ちゃん(お姉ちゃん)ですねえ!」と驚いて見せると、そのお母さんもすっかり心開いて、地域のお得な情報を教えてくれたり。YouMeさんはそれにも驚いて、感謝して。「驚く」ことが、人間関係を始めるとてもよいコツのようです。

もう一つの「雑談」も、YouMeさんから教えてもらったコツです。YouMeさんは見ず知らずの人ともスッと仲良くなることができるので、いったいどんな話題を振ればそんなことができるのか聞いたところ、「できるだけどうでもよい話題」と答えて、ちょっとびっくり。

「大切なことは、あなたと仲良くなりたい、という気持ちがあること。だから話題なんかなんでもいいし、なんならどうでもいい。」私にしたら目からウロコでした。私は、話す限りは実のある、内容のある話をしなければならないという「呪い」にかかっていました。

しかし、「あなたと仲良くなりたい」ということが目的なら、話題にこだわるのはむしろ障害になりかねません。当たり障りのない話題が無難。そして話題よりなにより、「あなたと仲良くなりたい」という気持ちが大切。その気持ちがあれば、不思議なもので、話題が何であろうと仲良くなれる、と。

自分の悩みやつらい気持ち、悲しみを見つめてばかりいないようにしてください。見ているつもりで「魅入られる」ことが多いです。嘆いていたつもりが、嘆く自分に酔うようになります。それでは、嘆き苦しんでいるはずだったのに、そこから脱出しようとしなくなります。学習性無気力になりやすい。

自分ではなく他の人を「観察」してみてください。観察とは、ただ見ることではなく、今までの自分が気づいていなかったこと、知らなかったことを探すことです。すると、どんな人からも発見、気づきがあります。それに素直に驚いてみてください。

すると、自分のことで驚いてくれる人には、心開きます。そこから「関係」が始まります。軽い関係をたくさん作ってください。たくさんの依存先を作ってください。すると、あなたの中から新しい自分が現れて、驚かされることでしょう。人間は環境で変わる生き物ですから。

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