石油に代わる輸送用エネルギーは確保できるのか

石油文明の大きな特徴は、輸送をパワフルかつ迅速に、しかも安価に行えるように行えるようにしたことかもしれない。そして石油以外のエネルギーでは、輸送コストが大幅に上昇する恐れがある。これが食糧やエネルギーの輸送コストを上げ、エネルギー安保や食糧安保を危うくする恐れがある。

石油は①液体であること、②少しの量でたっぷりのエネルギー(高エネルギー密度)であること、③安価であること、という、他のエネルギーにない特徴がある。
液体燃料であるということは、タンクにためやすく、エンジンに送りやすいという仕組みのシンプルな機械を作りやすい。これは大きな特徴。

液体燃料としてはバイオ燃料もあるが、量を確保することが難しく、安価に提供することも難しい。ほとんどのバイオ燃料は、製造するのに必要なエネルギーと得られるエネルギーを計算すると、赤字になる。エネルギー的に黒字になるのは、ブラジルのサトウキビ由来バイオエタノールくらい。

アメリカのトウモロコシ由来バイオエタノールは安いが、これは政府補助があるから。しかもこれの製造の場合、製造時に必要なエネルギーが、バイオエタノールとして得られたエネルギーよりも多い。つまり作れば作るほど赤字。これでは石油の代替燃料として使えない。

天然ガスや水素ガスは液化が難しい。どちらも超低温か超高圧でないと液化できない。水素ガスは常温でどれだけ圧力をかけても液化できない。仮に液化しても、分厚くて重いタンクになってしまう。液化を諦めたら、ガスだから量を積み込めない。石油の代わりに輸送機械のエネルギーにするのは難あり。

原子力や太陽光で電気を作り、それで石油やバイオ燃料のような液体燃料を製造できればよいが、今のところ、有効な技術はない。人類はまだ、石油のように、炭素と炭素の結合を電気エネルギーで効率よく製造する技術を持たない。つまり、低コスト・低エネルギーで石油を製造する技術を持たない。

原子力や太陽光、風力は、原則、電気を作る。電気の大きな問題は、「貯める」技術でまだ画期的なものはないこと。充電池は重く、大きい。このため、エネルギー密度という、重さあたり、あるいは大きさあたりでのエネルギーが、石油とはけた違いに小さくなる。重い割にエネルギーを運べない。

それでも乗用車サイズの電気自動車は、石油で走るエンジン車よりエネルギーあたりでの走行距離が有利なので、電気自動車の開発が急がれているのは理にかなっている。課題は、大型トラックなどでの輸送。これはまだ、電気自動車化するには、電池の能力が追い付いていない。

田畑を耕す大型トラクターも、電化が難しいらしい。農村地帯は電気のインフラがなく、これから作らねばならないし、パワフルな大型トラクターを長時間動かせるほどの電池がまだ開発されていない。コストも高く、農産物のような安いものを生産していてはペイしないという。

特に影響が大きいのは、飛行機だろう。石油のような液体燃料が使えないと、大型飛行機を高速で飛ばすのは難しい。電池で飛ばすとなるとプロペラ機になるが、軽量で高エネルギー密度の電池が開発できないと、小型のものしか飛ばせない。航空貨物も石油があればこそ。

石油採掘は、昔は1のエネルギーを掘るのに使ったら、200倍のエネルギーの石油が採れた。しかし今や、10倍を切るようになっている。投資家にとっても、投資効率が悪いエネルギーになりつつある。しかも二酸化炭素を出すから、炭素税などでコストが上昇している。魅力を失い、投資が減っている。

石油が採れづらくなると、「輸送」が難しくなる。これまでグローバリズムが進行したのは、輸送コストが石油のおかげで安くパワフルに実施できたから。しかし石油のようなパワフルなエネルギーが入手困難になった場合、輸送を簡単に行える他のエネルギーは見当たらない。

少なくとも、コスト増にはなるだろう。また、ジェット機で飛ばすようなスピードでの輸送は困難になるだろう。輸送の速度が緩やかになる社会を想定する必要がある。また、太陽光発電は1の製造エネルギーで7倍のエネルギーの電気を製造できる程度で、効率は必ずしも良くない。

1986年時点の日本のエネルギー消費量(11.37EJ)は、日本の国土に降り注ぐ太陽光エネルギーの4%に相当するという(1)。現在(2018年、13.12J)はもっとエネルギー消費が伸びていて、太陽光発電の効率は上昇しているので、仮に太陽光発電の効率を仮に高めの20%として計算してみると。

太陽電池だけで2018年の消費エネルギーをまかなおうとしたら、日本の国土面積の23.1%を太陽電池で敷き詰めなければならない。かなり非現実的な数字となる。太陽電池だけで今のエネルギー消費はまかなえない。エネルギー消費の生活に切り替える必要があるだろう。

それに、石油で走るエンジン車は、鉄を主成分とするエンジンを作ればいいだけだが、太陽電池で電気を作り、電池に電気を貯めるとなると、様々な希少金属を使用する必要がある。それらの資源が足りるのか?という問題もある。太陽光ですべてのエネルギーをまかなうのは難しい。

ペロブスカイト太陽電池になると話が別なようだが、それでも日本に敷き詰めなければならない面積の話はあまり違いはない。太陽電池以外のエネルギーも当面、日本は必要となるだろう。

果たして、石油「後」の時代に、輸送用のエネルギーをひねり出せるのか?もしそれが難しい場合、今のように国境を越えて自由に安価に輸送する時代は、続けることが難しくなる。それは日本の食料安全保障にも強く関わることになるだろう。

参考文献
1)槌田敦「エントロピーとエコロジー」p.139


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