読解力より、音読み単語

今の子どもは人工知能より読解力がない、と警鐘鳴らされてるけど、もう少し丁寧に考える必要がある。
私が塾を主宰していた時でも、公立中学で偏差値55以下だと「音読み」の熟語に反応できていなかった。意識、思想、速度、制御、提示・・・音読み熟語を聞いてもピンとこず、ポカンとしてしまう。

そうした子どものご家庭は、NHKを見ない、見たことがないというケースが非常に多かった。見るのは民放のバラエティー番組ばかり。「NHKなんか見る人、いるんですかね?見たい番組一つもないのに、なんで受信料払わなきゃいけないのか」と文句を言ってる親御さんが多かった。

家庭での会話は、単語が多い。文章になっておらず、せいぜい単語は2つ。
そして、音読み単語はほぼ使わない。家庭じゃなく、ウチ、いえ。会話じゃなく、おしゃべり。単語じゃなく、ことば。
このツイートの前半に使っている音読み単語でも、私が指導していた子どもの多くがピンとこなかった。

テレビは民放のバラエティーばかり、家庭での会話は単語2つまで、つきあう友人も似たような話し方、となると、音読み単語を耳にする機会がほとんどない。「機会」という言葉すら、ピンとこない。チャンスと言い換えないと、伝わらない。

しかしこれは「出会ってない」からできないだけ。チャンスさえあれば子どもたちは急速に吸収する。「雨か降るっつうのを降雨、っつうねん。雨降ると、ジメジメするやろ、あれ、湿度言うねん。湿度高いって言うのはむちゃくちゃジメジメするゆう意味や!」てな調子で、音読み単語をかみ砕きながら使う。

「速度って言うからわかりにくいねん。速さや!速さ、ゆうたら分かりやすいやろ。距離ゆうからピンとこんねん。遠い近いや!時間はさすがにそのまんまでええな?よし、ほんなら、速いやつと遅いやつ、同じ時間かけて走ったら、どっちが遠くへ行ける?そうや!速い方が遠くへ行けるやろ!」

「速度はみんな速さに読み替えろ!距離は遠い近いと読み替えろ!その上で、足の速いやつ、遅いやつ思い浮かべて考えて見ろ。ほんなら間違えにくくなるから。」
彼らが実感の持てる言葉に置きかえて指導したら理解できる。そのうち、音読み単語にも慣れてきて、使いこなせるようになっていく。

読解力より何より、音読み単語に慣れていない、ピンとこない子が、すでに三十年前から(いや、私自身も音読み単語がピンと来なかったから、四十年前か)いた。しかし彼らが親しんでいる言葉に置き換えたら比較的すんなり理解できる。つまり、音読み単語混じりの日本語は、彼らにとって外国語になっている。

また、論理を使うことにも慣れていない。AならばB、くらいの論理なら使っても、三段論法(A=B,B=CならばA=C)はあまり出会ったことがなく、聞くとビックリする。しかしこれも、慣れれば使いこなせる。使う場面に出会ってなかったから混乱してるだけ。

人工知能を研究してる東大の先生は、まさか「照明」という音読単語がピンとこないという実態をご存じないから「読解力がない」と飛躍して考えてしまったのかもしれないけれど、「あかり」といえばピンとくる子がほとんど。音読み単語に出会う環境にない、という点に注意が必要。

一時期、英会話教室に通ったとき、自己紹介を求められて「Phytopathologist(植物病理学者)」と言ったら、英会話の先生、ポカンとした。聞いたことがない言葉だったらしい。そこで、植物の病気を研究してます、と、日常用語で説明したら、ようやく納得。

これと似ていて、音読み単語はいわば、専門用語。私たち大人でも、専門用語はしばしばピンとこない。褥瘡なんて言われてもピンとこないが、「ずっと寝てたら血が通わんで、皮膚がずるむけなるねん、いわゆる床ずれや」と言うと、ピンとくる。あれと同じ。

テレビは民放しか見ず、家庭での会話は単語で済ますことがほとんどの場合、音読み単語は専門用語か外国語みたいなもの。だから「翻訳」が必要。翻訳さえきちんとできたら、次第に慣れてきて、使いこなせるようになる。
何でつまづいているのか、丁寧に分析することが必要。

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