タイトル2

コンジアムが蠢く夜(コンジアム感想)

その「事実」に直面するまで、
ぼくは確かにホラータイムズの視聴者だった。

CNNが選ぶ世界の心霊スポット七選、韓国代表コンジアム精神病院でホラー系YouTuber四人、公募で選んだ女性三人の計七人が肝試し、その様子を配信する。最大の見せ場は呪いの402号室。目標は同時接続者数100万人。高額な撮影機器を投入した最高の企画だったはずが。

ぼくの中の韓国ホラー

韓国ホラーと聞いて、貴方は何をイメージするだろうか。箪笥?それとも?どちらも繊細でじっとりと香りたつような、丁寧にフラグを構築してはそれをひとつひとつ、かつ速やかに回収してクライマックスへ、嗚呼、怖いが丁寧で綺麗な映画だった。そんな映画だ。
少なくともぼくは二つの映画にはそう思う。ぼくの中で韓国ホラーは箪笥と鬘によって、和製ホラーのリズムを持ちながらもより人間と言う種族の喜怒哀楽やメンタリティにスポットをあてたどこか頽廃的で耽美的なものになっていた。
だからこそコンジアムの予告ムービーやポスターを観た時点で、ぼくはすっかりコンジアムの虜になってしまった。ポスターの下部に並ぶ画面はどうみても耽美的からはかけ離れていたからだ。くわえて白目の無い笑顔の女性。この子が今回のホラーヒロインかな?そう思ってしまった。早く観たくて観たくて仕方ない、ずっと願っていた。
そして先日、ついにコンジアムがYouTubeに登場した。YouTuberが配信すると言うモキュメンタリーホラー、POV映画をYouTubeで観たら最高じゃないかと思った。完全に視聴者の立場で恐怖を味わおう、七人の勇姿を見届けようと決意した。
もしぼくが映画館にすぐにでも駆け付けられるようVtuberだったなら、この映画を初日に観て、途中で目をそらしたり泣き出してしまっただろうから、この決断は結局正解だった。もちろんDVD版も買います、ありがとう、サンキューコンジアム。愛してるぞ。

ターゲットは現代の若者

モキュメンタリーホラーは発信メディアの変遷にあわせて姿を変えてきた。コンジアムがそのメディアとして選んだのはYouTubeだった。日本でもなりたい職業ランキング上位にYouTuberが入ったり、Vtuberが9000人を越えたり、より自身の手で何かを発信することへのハードルが下がりに下がった現代。
日本より更にインターネット社会の加速している韓国では更にそのハードルは低いだろう。序盤のジヒョンのように誰もが気軽にムービーを録る。その下敷きが既にある舞台だ。
今更だけども自己紹介をここでさせてもらう。はじめまして、楽しい魚と書いて楽魚シンシャイと申します。ぼくはVtuberと言うYouTuberのひとり。つまり意図せずしてぼくはこの映画のターゲットに選ばれていたのだった。

最初の高校生はこれはスマホで配信できるプラットフォームの映像だ。
「同時接続者数100万人」
夢みたいな話だ。
「視聴回数でお金が稼げる」
わかる。
「あのチャンネルはこれだけ稼いだ」
気持ちはわかる。
序盤の楽しそうな七人の姿、
「この様子は後日ホラータイムズのサブチャンネルにあがるんだなぁ」
と気持ちはすっかりホラータイムズの視聴者だ。

頼り甲斐のある隊長、怖がりな大型犬タイプの子、それをからかう清楚、華やかでうっかりな子、女性陣を和やかにそして明るく引っ張る子、確かな仕事の技術の子、いじられる子。
全員無事ではすまないのに無事であれと祈らずにはいられない。尊さを享受するその心のどこかすがるような気持ちになっていた。

ネタバレを回避する感想へ

尊さに緩む頬もやがてへと至り、一時はになるも、ぼくは必死にあるものを探していた。そう、YouTubeLiveのチャット欄だ。ホラータイムズの視聴者と言う立場に呑まれすぎた結果ともいえる。
彼らを襲う惨状に、独りでは処理できない恐怖を抱えた。どこかに逃がさなければ、誰かと分けあわなければと焦ってしまった。マウスを握る手は震え、歯を食い縛り、目元も潤んでいたけども、画面から目を動かすことはできない。何故なら「配信として最高に面白い」からだ。
YouTubeで深夜、独りで観ることを選んだのは大正解だ。怖い、とてつもなく怖い。観終わって数分、視聴者の役から降りたぼくは今こうしてこれを打っている。遅すぎる恐怖のお裾分けだ。


以下ネタバレにつき注意(怖い絵もあるよ)


そしてネタバレへ

以下はネタバレを含むため、未視聴者は注意して早くコンジアムに七人と共に行くかネタバレを受ける覚悟を決めてほしい。
撮影、編集の技術の高さに感嘆していたのも束の間だった。本当に、束の間だった。院長室の儀式まで、夏の度ににこにこ動画でみるようなそんな故郷のような安定感と安心感に包まれるぼく。儀式も「あー招いちゃったじゃん」とちょっとほっこり。
しかしその直後、突然のホラータイムズ実 は や ら せ 。これにはぼくも激怒。霊さんも激怒。コンジアムの霊さん達いいぞいいぞもっとやれ!でも女の子たちは悪くないから守って!と隊長を襲う怪奇現象についヒートアップしてしまった。ヒートアップしたぼくよりもやりすぎてしまうのは霊さん達の方で、ホラー映画だから仕方ないよね?
そんなある種の丁寧な流れにより、女の子たちへの庇護欲や同情心が最高潮に達したとき、事件は起こる。ついに現れたのだ、ぼくがホラーヒロインだと思い込んでいた彼女が。

(すごいインパクトがすごい)

そう、なんとなく骨格とか汗とかメイクの落ち具合から察してはいた、察してはいたけどもジヒョン!!!
守るべき存在に牙をむかれたとき、ひとはこんな無力感と絶望と恐怖を抱くのだろうか。目を瞑れば白目のないジヒョンが早口で何かを呟いている。その口角は僅かにあがり、テストには出ないが多分夢に出る。なんならコンジアムとググれば出てくる、平素ならばこんなホラーヒロイン大好きなのに、ジヒョンだと思うとトラウマでしかない。
シャーロットはただでさえ錯乱していたのにもう華やかなメイクも髪も振り乱して泣き叫ぶ、シャーロット逃げてお願い、霊さんは服を着て、おむつはつけてる?ならいいよ、シャーロットはあざとくてうっかりだけど聡い子なんです許してお願い。青木ヶ原樹海を生き延びた強い女なんです。そんな願いも虚しく終わる。もうこのジヒョンとシャーロットの顛末だけでぼくは五回くらい発狂しそうになった。だと言うのに、だと言うのに映画はまだ終わらないのだ。まだ生きてるよな?全員やらなきゃ、だめだよなと病院自体が囁くように蠢くのだ。殺意以外の感情見失ってんのかい。

402号室に閉じ込められる三人のシーンも心が痛い。たかだかやらせごときで命まで取らなくても良いじゃないかとぼくは思うよコンジアム。根は悪い子じゃないんですと画面の向こうに祈っても届きはしない。ディレクション不可能な現状に業を煮やした隊長もついに病院内に入って……即堕ちする。

誰やねん。(多分院長)

七人の身に起こることに理由はない。確かにトラウマではあるのだが、ジヒョンはホラーヒロインではなくただの病院が引き起こした事象に過ぎず、まさしく病院そのものが主役だった。理由なんてないのだ、何故ならこれはモキュメンタリーホラーだから。「現実」をぼくたちは見せられただけなのだから。そして最後に見せられる「配信はされていなかった」と言う「事実」それはとてつもなく心に来た。ぼくはこうして強制的に「視聴者」と言う役から引きずり降ろされた。

さて、コンジアム周回プレイ、行こうか。

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