真実のロックバンドの新たな名盤『Who』


The Whoのニューアルバムのリリースが発表されたとき、きっと良いアルバムを出してくれるだろうという確信がありました。
現在も精力的に活動しているとはいえ、デビューしてから50年以上のバンドのニューアルバムは、一般的にはそこまで期待されるものではないかもしれません。

ライブでもファンは往年の代表曲求めるもので、新曲を望む人はそう多くないでしょう。
Whoも、2006年に24年ぶりのアルバムをリリースしたものの、評価はそれほど高くはなく、ライブでも新曲はあまり披露されませんでした。

それでもニューアルバムに期待をしたのは、近年のライブが本当に素晴らしいステージばかりだったからです。
2008年の単独来日公演以外生で観てはいませんが、2010年以降のライブだけでも3本の映像作品をリリース。そのすべてがエネルギッシュで見応えのあるものばかりです。

ボーカルのロジャーの歌声は力強く、ピートは相変わらず腕を回してギターを掻き鳴らしています。
亡くなった2人のメンバーの代役を務めるベースのピノ・パラディーノとドラムのザック・スターキーも、現在のWhoには欠かせない存在となりました。(残念ながらここ数年はスケジュールの関係でピノがツアーメンバーから外れていますが)
そんな充実したバンドの状態でレコーディングに入るのですから、期待も高まるというものです。

そして発売されたニューアルバム『Who』は期待通りの素晴らしい作品でした。
1曲目のAll This Music Must Fadeから11曲目のShe Rocked My Worldまで、一度再生を始めたらあっという間に聴き終えてしまう、捨て曲なしのアルバムです。
ロジャーがボーナストラックという存在に苦言を呈していましたが、これだけアルバムとしての完成度が高ければそれも頷けます。(ただし、ボーナストラックも良曲揃いです)
どの曲も甲乙付けがたいのですが、敢えて一押し曲を選ぶならStreet Songです。ロジャーのボーカルが素晴らしい!

ピートもロジャーも、すでに老人と言ってよい年齢です。
そんな2人が重ねてきた人生の重みのようなものを曲の端々に感じますが、だからといって決して老けこんでなどいません。
前作『Endless Wire』には、少し落ち着きすぎた雰囲気がありましたが、今回のアルバムには若々しさすら感じます。
Whoが現在進行形であることを証明するようなアルバムです。

ピートのロジャーに対する評価は近年かつてないほどに上がっているようで、コンセプトなどを重視するピートには珍しいことに、今作はロジャーのために曲を書くことが一番の目的でありモチベーションだったそうです。
だからでしょうか、このアルバムを聴いていると、「素晴らしい曲・素晴らしいボーカル・そして素晴らしい演奏、他に何がいるんだ?」という気持ちになります。

ニューアルバム『Who』が、1973年の名盤『Quadrophenia(四重人格)』以来の傑作という触れ込みは、決して大袈裟ではないと思います。
個人的には、今からThe Whoを聴こうという若者にはこのアルバムから聴くことをお勧めします。

そんなことを言うと、『My Generation』も『Tommy』も『Live At Leeds』も『Who's Next』も差し置いてそれはないだろうと、往年のファンからお叱りを受けるかもしれませんね。
贔屓目があることは認めます。なぜなら、このアルバムは自分が初めてリアルタイムに聴いたWhoの新作だからです。思い入れが大きいのは確かです。

それでも、このアルバムが新たなWhoの名盤であることは間違いありません。
たくさんの若いロックファンに聴いて欲しいですし、かつてWhoのファンだった人でもしこのアルバムをまだ聴いていない人がいたら、悪いことは言いませんからすぐに聴きましょう。

70歳を超えて、白髪になってもWhoはロックし続けています。
「30歳以上の人間は信用するな」がスローガンだった時代を超え、今でも「老いる前に死にたい」と歌っています。
それを格好悪いことだと言う人もいるかもしれませんが、そうは思いません。
Whoは、いくら歳をとっても老いない生きかたがあることを示してくれているように感じるからです。(新曲では「賢くなんてなりたくない」と歌っています。ここで言う賢さがどんなものを指すのか、ファンなら分かりますよね?)

もし、真実のロックバンドというものがあるとしたら、それはThe Who以外にありえないと思うのです。

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