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丹羽阿樹子『遠矢』

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丹羽阿樹子さん作品についての個人的考察

 日本画家「丹羽阿樹子」さんは、上村松園さんのお弟子さんで、京都でご活躍された日本画家です。のちに西山翠嶂さんの画塾・青甲社に入塾されています。
 他の作品は「着物の女性が望遠鏡を覗いている」「着物の女性がゴルフをしている」といった、徐々に欧米化されていくような日本の女性を描いたものが多いです。
 一世代上の上村松園さんは著書で「女が画家いなる」ということが厳しい時代だったと書かれておりました。どこか陰のある作品が多く「理想的な美しさを描く」松園さんに比べ、丹羽さんの作品は、明るくあっけらかんとした女性が描かれいるように感じます。
 
  そんな中、「遠矢」は、当時流行のファッションであったワンピースにハイヒイール、パーマをかけた髪というモダンガールの衣装に身を包んだ女性が、弓を構えている作品です。
 しかも、この弓の持ちかたが、弓道の持ちかたではなく「遠矢」と言われる、戦場で遠くの敵に向かって放物線を描くように射る形だそうです。タイトルからも分かるように、その「行為」を強く意識して描かれています。ギリギリまで引いた弓の緊張感と対比して足元には黄色と白のタンポポが咲き、蝶が飛び交っています。
 しかし、この作品は他の「着物の女性×モダンな動作」とは違い、「モダンな女性×古風な日本の動作」なのです。調べた限り、このような作風は見当たりませんでした。
 そして、他の作品の牧歌的な雰囲気とは違い、なんとなく「戦う決意」を感じます。美しさの定義が変わっていった時代性なのか、製作者の心境なのか、何か変化があった作品なのでしょう。


 実はこちらの「遠矢」は数年前に京都市京セラ美術館(当時の京都市美術館)に寄贈されたといものだそうです。評判を呼び、短いスパンで各地の展覧会を回りましたので、ご覧いなられた方も多いかもしれません。作品の大きさも大きく、かといって、巨大!というわけではなく、本当にキリっとしたよい絵だと思います。
  同時代の日本画に見られる女性は「絵のモチーフ」であることが多いです。それは、自分ではない対象として描いている=美しい花鳥風月や風景を描く日本画らしい部分だと思います。
 そういった価値観からは一歩はみ出しているような、とても現代的な「個人」を感じる作品であるため、現代日本で好意的に受け止められるのではないでしょうか。


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