「人に迷惑をかけてはいけない教」から足を洗おう

2021年1月29日 07:27

日本で最も信者数が多い宗教は、神道でも仏教でもなく、「人に迷惑をかけてはいけない教」である。

迷惑をかけてはいけない教と自死

「日本は自死率」が高いと言われるが、皆さんはその数字をご存知だろうか。

厚生労働省の自殺対策白書によれば、平成30年度の日本の自死者数は20,840人。平成21年度は32,845人であるから、ここ10年でかなり減少している。

もともと日本の自死者数は2万人前後だったが、バブル崩壊後の不景気で３万人を超える年が続き、平成の終わりになって、平常に戻ったというのが実情のようだ。

さて、平成30年に自死された方の理由をみると、10,423人が健康問題による。自死は複合的な理由によって起きるため一概にはいえないが、介護が必要となるような病気になり、車椅子を動かしてもらったり、酸素を取り替えてもらったりしているうちに、

これ以上、身近な人に迷惑をかけられない。

そう思って亡くなる方もいるのが、日本の自死の内訳である。

コロナ禍以前、スーパーや外食に行けば、こんなセリフを聞いたことがあったはずだ。

もー、迷惑になるからやめなさい！！！

小さいこどもに、子育て中の親が叱る。成長した後も

人に迷惑をかけるような人間にだけはなってはいけないよ。

と諭す。

日本人は真面目すぎるのか、政教分離原則や信教の自由原則を守るべく、学校教育から宗教的なものを一掃した。結果、今の日本人が共通してもつ生活信条は「人に迷惑をかけてはいけない」くらいといってもよい。

誰が最初に言い出したのかはわからないが、日本人は大変熱心な「人に迷惑をかけてはいけない教」の信者で、教団は「空気」という教祖を中心に、今も元気だ。

当然ながら仏教はそんな信条は持たない。仏は、「人に迷惑をかけてはいけない」ではなく、「人に感謝すること」を教える。

我々は縁（関係性）によって生じた存在である。直接的には性行為の結果として人の肉体が生まれ、環境によって影響を受けつつ成長し、今の自分となっている。

あなたの誕生日は、あなたの母親が死ぬほど痛い思いをした日である可能性が高いし、歩いているだけで地面の虫は踏み殺すし、息をするだけで空気中の微生物を飲んでしまっている。

いまだかつて、他者に迷惑をかけたことがないものなど、存在しない。

仏教では、この他者との関係性に感謝しつつ、一方でその関係性によって苦しみが生じるゆえに、自分の行動基準を他者に預けるようはことはしない。

迷惑病note

「人に迷惑をかけてはいけない」に代表されるような、自分以外の他者がどう思うかを判断基準にしてしまうと、永遠に苦しみを生む。

必要なのは「こうすればあの人は喜ぶかな？」という自発的かつ一方的な慈悲の発露で、見返りを求めること無く、それを実行する。これによってのみ人は安楽を得るのである。

あなたもそろそろ「人に迷惑をかけてはいけない教」から足を洗いませんか。その教えは、人を自死にまで追い詰めることもあるのだから。

この文章は一昨年の徳島新聞のコラムとして掲載されたものに加筆したものです。

コロナ禍中において読んでもらったほうがいいかもと思い、公開してみました。

最近、新型コロナウィルスの感染者が自死されたというニュースがありました。ぜひ皆さま、そんなことが起きないよう、お互いさまの精神を今一度取り戻しませんか🙏

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