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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語を正しく使ってホモサピエンスになる (第6回)

5. おわりに:ヒトは生命進化の最前線

  本研究はこれまで日本認知科学会の認知モデル研究会(2021.1.9開催,youtube動画あり)と全国大会ポスター発表(得丸2020c,得丸2022a),全国大会シンポジウム企画(得丸2022b, 2022c)で発表した内容をもとにさらに発展させたものである.「ことばの認知科学:言語の基盤とは何か」の論文募集に申し込んだところ,担当編集者から一般投稿を勧められた.(が,掲載を断られた)

 ヒトが7万年ほど前に音素を獲得し,知能のデジタル進化が始まったが,それはbitの発明によって急加速している.脳室内免疫ネットワークが駆動する脊髄反射回路は,Bリンパ球が1000万以上の語彙に対応する能力をもつために,語彙の増加には特段の苦労なく対応できた.文法処理は,無意識のうちに母語を片耳聴覚に切り替えることで対応した.

 今求められているのは,脊髄反射を使って群論理にもとづく概念を駆使することであり,信頼性の不確かな情報に前方誤り訂正を施すことである.脳がもつ単純な論理回路IF A THEN Bをどう使えばそれができるだろうかを考えてみた.

 概念を正しく学び,情報の誤りを正せば,脳内で言葉が自動的にネットワークして,知能が自己増殖するはずである.言語をもつ人類は,40億年前にはじまった地球上の生命進化の最前線にいる.言語進化は,まだ完成しておらず,我々はまだその途上にいる.文字とbitのおかげで現代人は有史以来の人類共有知と結びつくことになった.不随意で頑迷な脊髄反射を司る脳室内免疫ネットワークを活用して,人類共有知を正して発展させることが今日の課題である.

 本稿で論じた様々な仮説を読者が検証または反証していただくことが,ホモサピエンスになるために有用であると考える.

謝辞

 私の言語学との関わり合いは,高校生のときに鈴木孝夫の「ことばと文化」を読み,25年後の2001年6月16日に鈴木先生の講演を明治大学駿河台校舎で聞いたときに始まった.それは人類の起源への関心とむすびつき,島泰三先生の「はだかの起原」に触発されて2007年に南アフリカの最古の現生人類洞窟を訪れた.洞窟訪問後にデジタル言語学の研究会活動が始まると,鈴木先生は2010年4月から2年間隔月で「タカの会」という言語学サロンを開いてくださった.(得丸2012) おかげで筆者は言語処理が脊髄反射回路で行われているという仮説を得た.また,文節構造と文法処理の関係に気づくことができた.本稿は鈴木言語学の継承と発展である.2021年2月10日に帰幽された鈴木先生に心から感謝申し上げ,本稿を鈴木先生の御霊に捧げる.

 また,本研究は,電子情報通信学会,情報処理学会,人工知能学会他の研究会で2009年10月以降200回以上発表したことで深化し発展した,拙い発表に場を与えてくれた各研究会の幹事と参加者に感謝する.

参考文献

文 献

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得丸2021c 超皮質性失語症は血液脳関門の破壊によっておきるのか~ 脳室内免疫細胞ネットワーク仮説 ~信学技報MBE2021-20

得丸 2021d 「読む」とは何か?~ テキストを脳内ネットワークにつなぐ技, 信学技報TL2021-12

得丸 2022a脳室内免疫細胞ネットワークによる認知モデリング2022年認知科学会第39回大会ポスター発表P2-003

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ウィルソン, E.O. 人類はどこから来て,どこへ行くのか,斉藤隆央訳,化学同人,2013年


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