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【道元と宇宙】 12 露柱懐胎(ろちゅうかいたい)

「道元和尚廣録」を二度目に通読したとき、
上堂語501の露柱懐胎が、
荒川修作のTUBEという作品と
同じかもしれないとひらめいた。
ひらめきが正しいかどうかを考えているうちに、

フランス文学者寺田徹と、曹洞宗の考えが、
決定的に違っていることに気づく。

寺田は、「露柱を懐胎する」と現代訳して
自分の意識のなかに裸の柱が宿る
としているのに、

曹洞宗は「露柱が懐胎する」、
お寺の柱の中に赤ちゃんが宿ると、
仏教的ナンセンスで理解している
違いに気づいた。
(中にかぐや姫がいたイメージだろうか)

そして永平寺、総持寺、曹洞宗宗務庁、駒澤大学、
九州の修行道場の安国寺、皓台寺と、
片っ端から電話した結果、
総合研究センターにファックスを送るよう
指示を受けたのだった。

ファックスを書いているうちに、
より本質的な問い
「只管打坐(しかんたざ)」は道元の教えではなかった
ということが、自然に言葉として湧いてきた。
これについては、後で詳しく。

そのときのファックスを紹介する。

2015 年 10 月 15 日
曹洞宗 総合研究センター 御中
拝啓、秋も深まってまいりました。
貴下ますますご健勝の段、お喜び申し上げます。

さて、私は、東京国際仏教塾で仏教を勉強したものです。
今年 3 月に会社を退職して、
現在は故郷の大分で求職活動のかたわら、
読書をしております。

現在、寺田透の「道元和尚公録」(上・下)を読んでおります。
参考資料として、
鏡島元隆の訳した「永平公録」
(春秋社、道元和尚全集 第 10-12 巻)
も合わせて読んでいます。

また、大谷哲夫編著「『正法眼蔵』『永平公録』用語辞典」
(大法輪閣)の力も借りています。

それでもわからないことがあると、
曹洞宗の宗務庁、本山永平寺、本山総持寺、
九州の修行道場である福岡の安国寺、長崎の皓台寺
に電話をして質問をしています。

今回は宗務庁より、
総合研究センターに質問をするように
ご助言を得ましたので、
こうしてファックスをお送りするものです。

(略)

質問2 身心脱落の初めの露柱懐胎
さて、こちらの質問が今回の主な質問です。
上堂 501 に、
「身心脱落の功夫の初め、露柱懐胎す。
豈に無に辨(つと)めん」(寺田訓読)
という言葉があります。

「身心を脱ぎ捨てるための研鑽努力が始まると、
被覆のない剥き出しの柱が妊るという。
どうして無など相手に出来よう。」
と寺田は現代訳します。

これに対して鏡島の訓読は寺田と比べると、
「功夫(くふう)」と振り仮名していて、
「露柱懐胎」のあとの「す」がありません。
現代訳は
「身心脱落は修行の終わりではなく、
修行の始めである。
脱落とは丸柱が懐胎すること、
つまり有無の分別から抜け出ることであって、
どうして空無に帰することであろう。」
となっています。

すると、露柱懐胎について 2 つの解釈があることになります。
つまり、
(1)「自分のなかに露柱を懐胎する
(露柱が意識の内部に生まれる、寺田)」
のか、
(2) 「露柱が何かを懐胎して別のものになることで
「有無の分別から抜け出る」という
まったく別の精神の状態になる(鏡島)」
のか。

そして、寺田においては、
露柱とは何かが非常に気になりますが、
鏡島の場合、
露柱懐胎は単なるたとえ話であって、
露柱が何か、露柱懐胎が何かということは
あまり重要でないことになります。

大谷哲夫は鏡島と似た解釈で、

「露柱懐胎:あらわにむきだしの柱が子を孕む。
転じて無心に活動することに譬える。」
と説明します。

「無心に活動する」ことと、
「有無の分別から抜け出る」ことが同じかどうか、
検討の余地がありますが、
少なくとも露柱それ自体は単なる譬えでしかなく、
具体的なものはイメージしていない
と考えている点で二人は似ています。

この「露柱懐胎」は、宏智公録にも、天童如浄行録にも、
どちらにも登場する言葉であるそうです。
私は単なるたとえ話というよりは、
何か具体的なものが生まれる(宿る)のではないか
と思っているのですが、いかがでしょうか。

身心脱落して露柱が生まれたという経験を
お持ちの老師はおられませんか。
露柱懐胎とは何なのでしょうか。

質問の背景: 露柱と TUBE は同じものだろうか
どうしてこのような質問を考えるにいたったかというと、
20 世紀の現代芸術家荒川修作 (1936-2010)の
TUBE という作品を見たからです。
このダイアグラム絵画について 20 年近く考えてきて、
道元和尚公録の「露柱懐胎す」という言葉を読んで、
二つが結びついたのです。

もしかしたら荒川が描いたのは露柱ではなかったか、と。
それを確かめるために、
道元がどういう意味で
「露柱懐胎」という言葉を
使ったのかを知りたいのです。
お忙しいところを恐縮ですが、
ご回答あるいはご助言をいただければ幸甚です。

末筆ながら貴研究所のますますのご発展をお祈り申し上げます。

この後、思いがけない電話をもらうことになる。

(トップ画像は、荒川修作、Color Sample, 無題)


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