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『お父さんは心配性【4】』が売れたのはなぜ

 今年になってから、S市の独立系書店で働いている。シフトとしては週に1回くらいなので、出勤すると、この1週間でどんな本が売れたのかを確認するのが楽しみだ。フェア台に並べたもの、ポップをつけたもの、とっておきの新刊など、気にしている本が売れたときは特に嬉しい。
 先日、発注して入荷したばかりの漫画が売れた。岡田あーみん『お父さんは心配性【4】』集英社、である。全6巻あるうちの、なぜか4巻だけがすぐに売れたのだ。
 「なぜ、4巻だけ買ったのですか?」とお客様にたずねたいところだが、誰が買ってくれたのかはわからず、気になって仕方がない。

 そもそも、なぜ『お父さんは心配性』を発注したのか。書店にはすでに同じ著者の『こいつら100%伝説』全3巻が並んでいた。そして、あるお客様が、『お父さんは心配性』ではなく『こいつら100%伝説』が置いてあるなんてすごい、とツイートしているのを目にした。
 それで思い出したのだが、子どもの頃、大好きだったのが「りぼん」に連載されていた『お父さんは心配性』だった。当時は、「少年ジャンプ」と「別冊マーガレット」と「りぼん」を熱心に読んでいた記憶がある。
 そして、「りぼん」の中でも強烈な印象を残しているのが『お父さんは心配性』だった。「ちびまる子ちゃん」も好きだったが、とにかく笑えるのが『お父さんは心配性』であり、小学生だか中学生だったかのぼくは、心を掴まれていた。
 そんな話を妻にしたら、やはり同じことを感じていたという。関東の少年も四国の少女も『お父さんは心配性』に夢中だった。
 そんなことを思い出したので、もう一度見てみたいという気持ちもあり、店に並べてみたのだ。

 売れたことはもちろん嬉しいのだったが、なぜ4巻なのか。
 普通、コミックスを買う場合、2つのパターンが考えられる。

  1. 続けて読んでおり、楽しみにしていた新刊を買う

  2. 何かのきっかけで存在を知った作品の1巻を読んでみる
     『お父さんは心配性』の連載は、昭和58年から63年までとある。なんと35年も前の作品なのだから、「1」ということはない。ぼくが想定していたのは「2」のパターンで、まずは1巻が売れるか、あるいは大人買いで全巻売れるかのどちらかだった。
     4巻が売れたのには、作品自体に理由があるのかもしれない。そう考えて、自分でも読んでみることにした。自分用に注文をして取り寄せた。届くまでのワクワク感は、漫画雑誌の発売日を待ち望んでいた子どもの頃のようだった。

 読んでみて、すぐにわかったことがあった。「別冊ふろく50ページ」という新春の企画回を収録したのが4巻だったのだ。懐かしいなあと思いつつも、荒唐無稽なギャグの世界に引き込まれた。現代的なジェンダーの観点からは気になる点はあるものの、それは「ちびまる子ちゃん」についても言えることであり、時代的制約からは逃れられない。ただし、作品の根底を、お父さんの愛が支えているのだなあというのが、親になった身としての感想だった。
 この別冊ふろくとしての特別感があって、お客様が買ったのだろうと納得した。
 ところが、この4巻はそれだけではなかった。読み進んでいくと、「超ウルトラスペシャルデラックス企画 あーみん・ももこの合作まんが お父さんは心配性 プラス ちびまる子ちゃん」が登場したのだ。
 この作品は本当に合作しているようで、「お父さん」の佐々木孝太郎とまるちゃんが登場してくる。しかも「合作うちあけ話」という漫画が3ページも収録されていた。著者は2人とも「貧乏人」と自称している。「ちびまる子ちゃん」が国民的人気を博する以前のことだったのだ。
 もしかしたら、4巻を買ったお客様の狙いはこれだったのかもしれない。さくらももこファンが買ったという可能性も見えてきたのである。
 真相はいくら考えてみても、わからないのだったが、確かにこの4巻には、これだけ買ったことの理由づけができそうな1冊であった。

 独立系書店だと、大型店とは違って、店内のすべての棚と関わるため、かように売れた本から刺激を受けることがある。本と人との出会いの場を提供しているのだが、自分もお客様から、本と出会うきっかけをもらっているのだと気づかされた。

 

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