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長文感想『輝け! 浪華女子大駅伝部』 蓮見恭子
ひとかどの実績を残したものの、持ちタイムで世界陸上マラソン代表に選出されず、故障もあり今一つ伸び悩んでいる実業団女子ランナー・千吉良朱里(ちぎらじゅり)。
所属チームの廃部の際、監督の勧めで、浪華(なにわ) 女子大学の新興女子駅伝部の指導者を務めることになった主人公・朱里と、実績のない駅伝チームに参加した女子学生たちの王道スポーツ小説です。
私も、駅伝チームの顛末を追う小説はいくつか拝読しましたが、女子駅伝チームが題材というのは初めて。
この本は、終盤の駅伝本番の描写よりも、駆け出し指導者としての組織づくり、部員集めから長い期間をかけてのランナー育成のくだりに重点が置かれています。
現役選手からいきなり学生たちの指導を志す主人公、高校時代の陸上部での軋轢を引きずる才能ある選手、そして陸上未経験の身から必死に素質ある同僚に追いつこうともがく選手―――
バラバラだった主人公と部員たちが、どのようにレベルアップしていくのかの深掘りは実にきめ細かく、一緒に彼女たちと苦楽を共にしているような読み応えがあります。
あとがきによると、著者自身のランニング経験が随所に生かされているとか。
これまで読んだ本の中でも、物語としてのファンタジックな演出よりも、選手生活のリアリティーがことさら強く感じられた次第。
駅伝シーズンの最も華やかな年末年始、さらに駅伝競技のキモを知るにはピッタリの本でした。
【以下、余談】
「今日は、私が高校時代の先生から教えてもらった話をします」
「皆は、この夏、体と心を絞り込んできて、今は鋭く尖らせた鉛筆と同じ状態になっている」
「(前略) あなた達の体は今、体を守ってくれる脂肪のクッションがなくなっているの。ちょっとした不注意で怪我をしたり、風邪をひきやすくなっている。それに、体と同様に心も細くなっているから、気持ちも不安定になる」
少しでも変調を感じた者は、隠さず相談して欲しい…。
かつての同僚とのすれ違いを経験した、朱里の後悔を滲ませた言葉にアスリートへの著者の思いがじんわりと伝わってきます。
箱根へ、そして全国の舞台へ立つすべての競技者の心情を思う時、この本は駅伝ランナーを応援するファンにとっての、適切な「伴侶」となるだけの濃いメッセージが込められているように感じます。
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