白い家

第1章 真白の箱 (5)

日曜の朝は、晴天だった。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出し、コップ一杯一気に飲んだ。洗ったばかりの洗濯物を、外に干そうとベランダに出ると、遠くで電車の音が聞こえた。
不意に玄関のチャイムが鳴った。宅配便らしい。まだパジャマだったことを後悔した。
 「設楽さん、お届けものです。」
宅配業者は、大きく横に〔ほうれん草〕と書かれた段ボール箱を軽々と渡した。受け取った私は、予想以上の重さに
 「っと・・!」
と声が出た。

母からだった。伝票には’食料品’と書いてあった。

 「ご苦労様です。」
私のかけた労いの言葉は、きっと彼には届いていない。その宅配業者は足早に去っていった。

段ボール箱の中身は、鰹節・干し椎茸・サバ缶・干し芋・せんべい・米、そして薄い便せんが添えられていた。

「由里子へ
  お元気ですか。東京はまだ梅雨明けていませんか?
  母は元気です。お父さんも元気です。
  ひまりも、だいぶ大きくなりました。今では、はいはいからたっちする  ようになりました。よく食べます。最近はエビにはまっています。可愛  い孫です。
  由里子もよく食べて、体に気をつけて。  母より」

 届いた干し芋を早速開け、ほおばりソファーに横になった。ここ最近、自炊を全くしていないことを、母は知らない。ほとんどの食事は、コンビニか弁当屋で済ませている。冷蔵庫の中には、ミネラルをウォーターと栄養ドリンクだけが入っていた。

4歳年下の妹、真智子は結婚と同時に妊娠し、里帰り出産で実家に戻っていた。ひまりは、真智子が産んだ女の子で、母にとっては待望の初孫となる。目に入れても痛くない溺愛ぶりが、手紙からもにじみ出てくる。

母の手紙は、言葉なくとも「幸せ=結婚・出産」なのだということをまざざと語っていた。
私は、また一息ため息をつき、天井を見上げた。

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