見出し画像

白い家

第1章 真白の箱 (4)

  「由里子さん?」
急に呼び止められ、我に返った。同じ研究室の後輩、田中梨花だった。思わず、コンビニのおにぎりとおでんが入ったレジ袋を、背中に隠した。
  「まだ研究室に残ってたんですね!」
  「田中さんは、今日も合コン?」
梨花は、ふっと頬が緩み、
  「わかります?今から合流です。」
ロングの髪をきれいに巻いて、ピンクのワンピースが体のラインの細さを強調していた。いつもは履かないヒールの高いパンプスのためか、結果的に私は見下ろされる格好になった。
  「あまり飲み過ぎないようにね。」
  「はーい。おつかれさまです。」
彼女は、足早に去っていった。

東京生まれ、東京育ちの梨花は実家から研究室に通っていた。一度、彼女を街中でみかけたことがあった。家柄いいのだろう。気品のある両親を連れて、大きなショッピングバッグをいくつも持っていた。

彼女の後ろ姿を遠く見つめながら、踵を返した。

絶対に戻るまい。あの地元に戻るまい。あの田舎に戻るまい。

コンビニの袋を、ぎゅっと持ち直した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?