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タワマンママたちと生涯の友になった話③下世話クラブ結成

げ‐せわ【下世話】

——世間で人々がよく口にすることば。俗にいうことば。ことわざやたとえ、物の道理などについていう。
(「コトバンク」より)

その前に、Mは元気な赤ちゃんを出産。
二児のママになっていた。

春。進級、といってもひと学年にひとクラスしかない保育園なのでメンバーは同じ。
私はしだいに皆と打ち解けてM、Y以外にも気軽に話せるママ友はいたが、やはり2人は特別だった。

進級会に知らない女性が。
それがT。
このチームのリーダーである。
後に私はTの通訳的ポジションに置かれるのだが、それは先の話。

小柄で華奢で、うーん、なんとなく気さくな雰囲気ではあるのだが、なんとなく話しかけることができなかった。

前年度まで子は勝どきのインターナショナルスクールに行っており、そこからこの園にやってきたという。

ハイブランドの服を着て、とても高そうな腕時計をしている。
私とMとYは只者ではない人がやってきた、そう思っていた。
いや、私たちだけではなかっただろう。

そしてTの住まいはMとYの住んでいるマンションの最上階だということが判明する。

タワマンというのは、強烈なイメージがあるものの、実際住んでみると、この東雲では本当に「普通」の人々が住んでいるのだけど、その住んでいる私たちの認識でも「最上階」というワードはちょっと構える。

そこだけ天井が高く、物件よっては螺旋階段などがありメゾネットになっていたり、含有面積も広く、他のフロアに比べて価格がかなり高い。
そう、タワマンのその高さのその空間は聖域なのだ。

Tの子は唯一の男子なのだが
「◯◯くんのおうちってなんか凄そう…ママもセレブ感漂ってるよね、気になるよね」
そんな話を3人でしていた。

当のTは偉ぶることも全くないし、会えば気さくなのだが、なんとなく距離を取られている。
お迎えが同じタイミングになったとき、私とT、2組が出て、道が分かれる。
行き着く先はほぼ同じなのに私と違う道を選んで
「じゃあね〜」と。

避けられているのか?
私が嫌われている、というよりはみんなに関心がない感じ。
やはりセレブは私のような庶民とつるまないのだろうか。
それなら仕方がない。
けど私にはTの底抜けない、とてつもない魅力が見え隠れしていて、どうしても仲良くなりたいと思った。

その年の運動会。
私は朝慣れないお弁当を作っていた。
すると娘が
「あー!◯◯くんのママだよ」
と叫ぶ。
え、と思い目をやると、街頭インタビューにTが答えていた。
背景は豊洲。確実にTである。

内容は、ある女優さんがパワハラを起こし、若手の女優が舞台をストライキしたというトピック。

「えぇ、あのさぁ、お金もらってやってるプロなわけだからそんなのダメに決まってるでしょう?騒ぐならちゃんとこなしてからやりなさいよ、ねえ?(インタビュアーに向かって)あなたたちもそうでしょう?え?なに?え?なに?」

というような威勢の良い感じで我が家のリビングはTに圧倒された。
おそらく多くの家庭でそうだったのではないだろうか。

ダメだ。この人には魅力しかない。
何としてでも友達になりたい。
その欲求は頂点に

運動会の少しあと、Tに会えたので私は思い切ってインタビューのことを話してみた。
すると
「えーー!?見たのー?びっくりーそうそう、何人かから連絡来たんだよね、私は見てないんだけどね」
などと結構乗ってきてくれた。

それから私とTはどこかでバッタリと会うと、以前より話すようになった。
お互い前の住まいが近くて、行ってる八百屋が同じだった。
Tの夫は経営者でいくつもの店を構えているのだが、その本店的なところが私にとってとても大切な「翁」ビルの中にあった。

ものすごく縁を感じた。

そんなある日、私とTは彼女の住むマンション高層階にあるラウンジお茶をした。
まだ出会って日の浅い私に、それは赤裸々に自身の人生を語ってくれた。
Tが着ている、身につけている高級品たちは夫の意向で
「この俺の妻なんだからこういうのを着て、持ってもらわないとな」
無理やり買ってきて着させられているのだという。

なるほど、確かにこの魅力的な内面にブランドロゴの服はチグハグだった。

そして上の子の友人関係ですっかり満足していて、もうママ友はいらないと思い、なんとなくそういのを避けてたのだと。

私もすっかり心を許し、色々なことを話した。

こうして私、T、M、Yの4人がしだいに仲良くなり、チームのように行動するのである。

•最年長のTはリーダー
•帰国子女のMは英語担当
•数字に強いYは割り勘計算担当
•お酒が好きな3人に対して一切飲まないので、その日どんなことがあったのか記憶しておくのが私の担当

側から見て、結構強烈だったと思う。今もそうか。

育ちが良さそうなMとYがつるむのはわかる。
変わった雰囲気のTと私がつるむのもわかる。

周りはそう思うだろう。
でも私たちは2:2でも1:3でも3:1になることもなく、4人が一心同体となった。
今もそう、絆は日が経つにつれ深く深く潜ってゆく。

ある日3人の住むマンションのゲストルームで飲み会をした。
泊まりなので子供達が寝静まったら私は変なことでもみんなから聞き出そうとワクワクしていた。

深夜、やっと子供たちが寝静まる。
Tは翌朝早いので帰ってしまった。
そこにYの夫が仕事帰りにやってきた。

私たちの様を見て
「なんか、このメンバー下世話クラブじゃん」

それだ。
この日をもって、私たちのチーム名は
「下世話クラブ」
となった。

下品という意味ではない、

げ‐せわ【下世話】

——世間で人々がよく口にすることば。俗にいうことば。ことわざやたとえ、物の道理などについていう。(「コトバンク」より)

である。

皆お迎え時間が基本同じなので、皆が通常通りの日は
「オンタイム下世話」
誰かがイレギュラーで揃わないときは
「ノー下世話」
という言葉が普通に飛び交うようになる。

続く

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