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長編連載小説「クラリセージの調べ」

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「澪標」鈴木澪の妊活編です。
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#小説

連載小説「クラリセージの調べ」1-1

※ さくらゆきさんの描いて下さった二人の姿です。小説と一緒に、ぜひご堪能下さい。  新型…

may_citrus
6か月前
93

連載小説「クラリセージの調べ」1-2

 祖母と紬さんが揃ってお手洗いに立ったとき、結翔さんがアクリル板越しに尋ねる。 「ここは…

may_citrus
6か月前
66

連載小説「クラリセージの調べ」1-3

小山市で授業と部活指導に明け暮れる結翔さんと、高崎市で人材派遣の仕事をする私は、なかな…

may_citrus
6か月前
74

連載小説「クラリセージの調べ」1-4

 コートを着ていても木枯らしが肌を刺す一月の日曜だった。市川家と鈴木家は、結翔さんの友人…

may_citrus
6か月前
71

連載小説「クラリセージの調べ」2-1

   結翔くんは、毎朝6時半に起床し、疾風のように身支度と朝食を済ませ、7時に家を出る。私…

may_citrus
6か月前
78

連載小説「クラリセージの調べ」2-2

 キッチンの小窓から、幼稚園の制服を着た皇太郎くんが玄関に駆けて行くのが見える。車をオー…

may_citrus
6か月前
78

連載小説「クラリセージの調べ」2-3

 母屋の庭には、お義父さんが孫のために作った2メートル四方の砂場がある。子供用の小さなシャベル、スコップ、バケツが揃い、皇太郎くんは砂団子づくりに熱中している。できた砂団子は、砂場の縁の木枠に並べられている。  頬に夏の陽ざしを感じながら、実家の近所に砂場のある公園があったことが脳裏をかすめる。友達と時間を忘れて遊んでいるうち、周囲が暗くなり、呼びに来た祖母と一緒に帰宅した。あのころ見た夜が昼を飲み込もうとするような空の色が好きだった。蝙蝠の巣がある雑木林が近くにあり、そこ

連載小説「クラリセージの調べ」2-4

「じゃあ、行ってくるわね~。お父さんには言ってあるから、何かあったら、声かけるといいわ」…

may_citrus
6か月前
65

連載小説「クラリセージの調べ」2-5

 朝から蝉の鳴き声が喧しい土曜日。結翔くんは部活の指導に出かけた。夏休みも終わりに近いの…

may_citrus
6か月前
68

連載小説「クラリセージの調べ」3-4

 朝晩の冷えが厳しくなると、空気に透明感が増す。玄関の掃き掃除をしながら、結翔くんと出会…

may_citrus
5か月前
68

連載小説「クラリセージの調べ」3-6

※ 診察の描写は一例です。治療については専門医にご相談ください。  昨夜の濃厚な交わりの…

may_citrus
5か月前
62

連載小説「クラリセージの調べ」3-7

「何で瑠璃子が知ってるの……?」  瑠璃子の端正なマスクは、能面のように表情を失くしてい…

may_citrus
5か月前
68

連載小説「クラリセージの調べ」3-9

※ 治療シーンは一例です。治療については、専門医にご相談ください。  朝日がほんのりと差…

may_citrus
4か月前
73

連載小説「クラリセージの調べ」3-10

 雲間から覗く午後の陽は、午前の疲労を吸収したように濁っている 。濃度を増した沈黙を破るように、ウエイトレスが三人のグラスに水を注ぎ足していく。  瑠璃子が注がれた水を口に含んでから尋ねる。 「ご家族に受け入れてもらえなかったの?」  彼は小さく頷き、意思を固めたように目元を強張らせると、私たちの目を順に見る。 「二人とも絶対口外しないって約束してくれるか? その……、この辺りでも噂が広まったら仕事がやりづらくなるから……」  私も瑠璃子も、すずくんの視線を受け止めて頷