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ピアノを拭く人 [長編小説] (完結)

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彩子が出会った素敵なピアノを奏でる男性は、些細なことが気になって居ても立ってもいられなくなる病に悩まされていた。
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2021年4月の記事一覧

ピアノを拭く人 第1章 (8)

 抜けるような青空が、週末を迎えた人々を祝福しているようだった。  彩子は車の両窓を下げ…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第1章 (9)

 フェルセンの花壇の端に屹立する銀杏が、色づき始めていた。彩子は、もう少し色づいたら、ペ…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第1章 (10)

 朝の澄んだ空気が、残っていた眠気を一掃してくれる。駅から試験会場となるC大学までの道を…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第1章 (11)

 手を伸ばせば金色の月に届きそうな夜だった。  閉店時間を過ぎたフェルセンの出窓から明か…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第1章 (12)

 手紙を書くために、トオルが明るくしていた照明が、彼の目元の疲労を悲しいほどに際立たせて…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第1章 (13)

   彩子は、バッグを肩にかけ、登録会の資料を入れた段ボール箱を車からおろした。今にも掴…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第1章 (14)

 昼過ぎから降り始めた雨は一旦弱まったが、夕方には勢いを増していた。彩子は車のワイパーを最速にした。風に煽られて車を直撃する雨音は、ラジオから流れるピアノ協奏曲の緩徐楽章を聴こえにくくする。助手席には、透のために購入した便箋と封筒を入れた袋が乗っている。彩子は過去にフェルセンに行ったどの日よりも、気がはやっている自分に気づいた。  フェルセンの扉を開けると、いつもは耳に飛び込んでくるピアノが聴こえてこない。カウンターの後ろにいる羽生の目元に、疲労がにじんでいるのが遠目にもわ

ピアノを拭く人 第1章 (15)

 屋根を打つ雨音は、いつの間にか止んでいた。その分、時を刻む秒針の音が存在感を増している…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第1章 (16)

 帰宅ラッシュの車の渋滞は、リズムのない間隔で、のろのろと進む。川沿いの国道には、テール…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (1)

彩子は信号待ちをしながら、スーツ姿の男性が、道路に積もった落ち葉を無遠慮に踏みつけ、速…

may_citrus
3年前
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ピアノを拭く人 第2章 (2)

 透はカバンからファブリーズを取り出し、助手席の座布団に吹きつけてから車のドアを閉めた。…

may_citrus
3年前
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